第24章 施設の方針、手順、法的問題 Traci Statler, PhD, and Victor Brown, MS  著者らは、本章の執筆にあたって多大な貢献をいただいたBoyd Epley、John Taylor、Michael Greenwood、Lori Greenwoodに対し、ここに感謝の意を表します。  本章を終えると  ・ストレングス&コンディショニングプログラムの目標と目的を明確にすることができる。  ・ストレングス&コンディショニングプログラムの目標と目的を達成するため、日々の運営の実践について理解することができる。  ・安全で効率的なストレングス&コンディショニングプログラムを導く実践の基準を確立することができる。  ・潜在的な賠償責任にさらされる共通の領域を特定し、適切なリスクマネジメント戦略を実施することができる。  ・ストレングス&コンディショニングのプログラムおよび施設に関する方針および手順マニュアルを作成することができる。  ・適切にストレングス&コンディショニング施設のスケジュールを組むとともに、シーズンの計画とスタッフ-選手比についてのガイドラインを策定できる。  ストレングス&コンディショニングの専門性は、進歩を続けている。典型的には、実践者の知識とスキルの向上は、運動科学や運営、マネジメント、教育、コーチングのコンピテンシー(職務における能力のこと)と関わっている(20)。学生選手の安全性と福祉の最前線において、方針および手順、マニュアルを作成することは、安全で効果的なプログラムおよびサービスを実施するうえで基本設計図となる。  方針とは、施設の規則や規定のことで、プログラムの目標・目的を反映する。手順とは、方針を実現する方法を説明するものである。プログラムの目標および目的は、方針や手順を作成する際の基盤となるため、これらを吟味する必要がある。加えて、個別の方針および手順は、プログラムおよび従業員を訴訟から守る要素が含まれているべきである。すなわち、監督を行うためのガイドラインや指示、施設運営、緊急時対応計画が含まれる。本章の目標は、リスクにさらされる領域と、安全性を高める手段を特定するとともに、ストレングス&コンディショニング専門職が提供するサービスおよびプログラムの質の向上をガイドすることである。 ミッションステートメントおよびプログラムの目標  ミッションステートメントとは、組織の目的について述べたものである(2)。ミッションステートメントの作成には、結果を念頭に置いた前向きの考え方が必要である。優れたミッションステートメントによって、ストレングス&コンディショニングプログラムの焦点や方向性、目的意識が得られ、これに基づき効果的な運営が行われる。下記の項目は、効果的なミッションステートメントを作成するうえで、ドラッカー財団(22)が提唱した基準である。  ・短く、はっきりと焦点が合っているべきである。  ・明確で理解しやすい。  ・なぜこの組織が存在するかを定義している。  ・手段を詳述していない。  ・対象とする幅が広い。  ・倫理規定を順守する方向性を示す。  ・その組織の実践の範囲に対応し、合致している。  ・コミットメント(責任や献身)を呼び起こす。  ミッションステートメントは、3つの重要な要素に対処する。すなわち、対象となる顧客(鍵となるマーケット)、何のサービスを提供するか(貢献)、そのサービスを独自のものとするのは何か(差異)である(2)。 以下は、ストレングス&コンディショニングプログラムのミッションステートメントの例である。  選手のケガの予防および競技パフォーマンス向上を支援するため、清潔、安全かつ専門的な環境を整え、定められた時間内で継続的、合理的、体系的にトレーニングできる手段を提供する。  プログラム目標とは、ストレングス&コンディショニングプログラムによって望む最終結果であり、幅広く一般的な方法で記述される。効果的なストレングス&コンディショニングプログラムは、意図する結果を伴って競技およびその選手のポジションに特異的なパフォーマンスを促進し、ケガへの耐性を高めるために科学的原理に基づくべきである(7)。  ケア基準を作成することは、共同的な責務である。したがって、ミッションステートメントとプログラムの目的に関するリストの作成においては、ストレングス&コンディショニング部門が関わるだけでなく、運営部門やスポーツ医学部門の関わりも必要である。関わる人が多いほど、関わったグループや個人に所属意識が生まれ、ストレングス&コンディショニングプログラムのミッション、目標、目的の達成に専心するようになる。  >ミッションステートメントとは、組織の目的についての記述であり、ストレングス&コンディショニングプログラムに焦点および方向性をもたらすものである。 プログラムの目的  プログラムの目的は、目標に到達するための具体的な手段である。目標に到達するための方法を示すことなくプログラム目標だけを示しても、結果として選手を成功へ導くことはできない。プログラムの目的は目標に到達するためのプログラムの全領域を網羅すべきである。以下に、プログラムの目標到達につながり、ストレングス&コンディショニング専門職が業務上の必要条件を扱う準備を整えるためのプログラムの目的の例を示す。  ・傷害発生を抑え、競技パフォーマンスの向上につながる筋力トレーニング、柔軟性、有酸素性トレーニング、プライオメトリックトレーニングその他のトレーニングプログラムを組み立て、実行する。より詳細には、身体組成、筋肥大、筋力、筋持久力、心臓血管系持久力、スピード、アジリティ、コーディネーション、バランス、パワーなどにおいて望ましい結果を得るためのトレーニングプログラムを組み立てる。  ・年齢、性別、トレーニング状態、身体的制限因子、傷害歴を考慮し、個々の選手の間のバイオメカニクス的および生理学的な差異に応じたトレーニングプログラムを作成する。  ・トレーニングに対する急性・慢性の生理学的応答および適応と、これらの競技特異的なトレーニングプログラムの作成時に持つ意義を認識する。  ・良質な栄養と睡眠の重要性、またそれらが健康とパフォーマンスにおいて果たす役割について選手に教育する。  ・パフォーマンスを増強させる物質の効果と乱用による悪影響、それらの物質に対する学校の方針、法律について選手に教育する。  パフォーマンスチームのコンセプト(個別の専門性を有する人たちをリソースとして用いること)は、前述の目的に合致するように働きかけるストレングス&コンディショニングプログラムの作成に適用することができる。たとえば、選手がリハビリテーションやリコンディショニングを必要とする場合、スポーツ医学スタッフが相談を受けるべきである。ディレクターオブストレングス&コンディショニングは、安全で効果的なサービスを提供するために、適切にスタッフを活用することを決定するために明文化された方針および手順を確立する必要がある。加えて、年に1回、スタッフやコーチ、利用者がお互いに知り合い、確立された目標や目的、方針、手順について習熟してもらうためのオリエンテーションミーティングを年度初めやシーズンの開始時に実施する。定期的に目標と目的について再評価および見直しを行う。 ストレングス&コンディショニングパフォーマンスチーム  この分野の発展、認知度の向上とともに、ストレングス&コンディショニング専門職の責任は変化し続ける(14)。ストレングス&コンディショニングスタッフは、正式な教育を受け、特定の科学的基礎(例:解剖学、運動生理学、バイオメカニクス)において専門化した実践者を雇用することによって提携することができる。構成されたチームにより、それぞれ補完的なスキルを持つ実践者らによる複数の専門領域間の協調が可能となり、またスタッフメンバーが自分の専門領域外の知識を得る教育的機会がもたらされる。表24.1に、ストレングス&コンディショニングパフォーマンスチームの実践例を示す。ディレクターオブストレングス&コンディショニングは、プログラムデザインやエクササイズテクニック、組織化と運営、測定と評価のために適切な業務と責任をストレングス&コンディショニングスタッフに受け持たせることに責任を負っている。  所属する機関によって具体的な職責は異なるが、ストレングス&コンディショニングパフォーマンスチームを育成するうえではStrength and Conditioning Professionals Standards and Guidelines(ストレングス&コンディショニング専門職の基準とガイドライン)(20)に沿うのが賢明であろう。同ガイドライン2.3は以下の通りである。  ストレングス&コンディショニングスタッフの生産性と、各メンバーの学習およびスキル向上は、相互に依存する専門性を持つ、認定を受けた実践者らによって構成されるパフォーマンスチームが提携することと、リーダーシップの役割を共有することによって促進される。一度チームができあがったら、CSCS試験内容説明における「実践・応用」の領域の個々の活動および責任、そして適切な連絡の割り当ては各メンバーの「科学的基礎」の専門性に基づいて任されるべきである。 ディレクターオブストレングス&コンディショニング(ヘッドストレングス&コンディショニングコーチ)  ディレクターオブストレングス&コンディショニング(以下ディレクター)は、通常ヘッドストレングス&コンディショニングコーチとも呼ばれ、現場での指導と運営にあたる。ディレクターは、ストレングス&コンディショニングプログラム、施設、設備、スタッフのほか、予算編成や機器の購入、定義書作成、運営部門やメディアとの折衝などの運営上の職務を含む全体に責任を持つ。図24.1は、この職務内容の例を挙げている。図24.2には、ディレクターの一般的な職務内容を示した。  ディレクターは、プログラム参加者およびスタッフに対し、文書化した施設の運営方針と手順を作成、公開し、実施させる責任を持つ。ディレクターは、スタッフが適切な訓練を受け、業務を適切に行えるようにする責任がある。ディレクターは、スタッフおよび学生選手オリエンテーションミーティングを催してこれを達成し、定期的にスタッフの専門性のパフォーマンスを評価するとともに、プロの目標に到達しているかを決定および評価する。図24.3は、学生スタッフの評価のための書式例である。この書式は、学生インターンを評価する際に用いることができ、また、より特異的かつ効率的に改変されてストレングス&コンディショニングパフォーマンスチームへと適用される。 ストレングス&コンディショニングスタッフ(個人の資格)  独立した認証を受けた組織の発行する、CSCSといった認定資格を所得していることによって、ケア基準が確立される。2015年8月1日、NCAAディビジョンIでは、「ストレングス&コンディショニングコーチは、認定を受け、国家的に認証されたストレングス&コンディショニング認定プログラムを通して現在の有効な資格を維持していることを明示する」(p. 1)という規定を採択した(6)。継続教育は専門資格の維持に必須であり、それによって、とくに管理と指導の領域における賠償責任を軽減させることができる(1)。この領域の訴訟では「プロフェッショナル指導者の資質」が問われることがしばしばあり、資質の中には継続教育も含まれる(19)。したがって、アシスタントストレングス&コンディショニング専門職も、標準的な応急処置、心肺蘇生法(CPR)、自動体外式除細動器(AED)を含む資格を取得し、更新を継続するべきである(6)(各スタッフメンバーに求められる要件のポイントについて、図24.4を参照のこと)。  加えて、各スタッフはストレングス&コンディショニングプログラムの目標と目的を理解する必要があり、(スポーツ医学チームのほかのメンバーと同じように)互いの責任とスケジュールを尊重しながら協力して働くことが求められ、専門職としての行動規範を守る必要がある。 Strength and Conditioning Professional Standards and Guidelinesの付録Aに、ストレングス&コンディショニング専門職について定義している。  認定ストレングス&コンディショニングスペシャリスト(CSCS)は、スポーツのパフォーマンス向上を最大の目標として、基本的知識を適用して選手の評価、モチベーションの向上、教育、トレーニングを実施する専門職である。彼らは、競技特異的なテストの実施、安全かつ効果的なストレングス&コンディショニングプログラムのデザインと実践、栄養摂取と傷害予防についてのガイダンスを行う。認定ストレングス&コンディショニングスペシャリストは、自身の専門分野が医学、栄養学、アスレティックトレーニング、スポーツコーチングとは明確に区分されていることを認識し、必要に応じて、こうした他の分野の専門職に選手の相談、照会を行う(13ページ)。 法律的・倫理的問題  スポーツ競技活動に参加している人は、ストレングス&コンディショニング専門職を含めて誰もが法的責任に関心を持たなければならない。傷害発生のリスクは完全に排除できないが、ストレングス&コンディショニング専門職はそのリスクを効果的に管理することができる。リスクマネジメント(危機管理)は、スポーツ競技活動への参加による傷害のリスクを軽減および管理し、それによって責任問題発生のリスクを軽減する対策を実施することである。リスクマネジメントの第1段階として、重要な用語を理解することと、傷害の原因となり訴訟に結びつく可能性のある責任問題が生じる領域を認識することが挙げられる。各施設にはそれぞれ独自性があるが、すべてのストレングス&コンディショニング施設に共通して潜在的な責任を認識し得る領域が存在する。以下の項では、このようなリスクのある領域について、また緊急時対応計画や、信頼性の高い記録管理、責任保険の必要性について述べる。 一般的な法律用語  ストレングス&コンディショニング施設の運営上起こり得る法的な流れを理解するために、ストレングス&コンディショニング専門職は最初に以下の一般的な法律用語を理解しておかなければならない。  インフォームドコンセント──参加を希望する人に対して、内在するリスクと利益についての説明と共に説明され、その個人が決定することを可能とする手続きまたは活動の過程。  責任──法的な責任、義務、債務。ストレングス&コンディショニング専門職は、職業上、関わる選手に対して、傷害が発生した場合のみでなく、傷害発生を防止するために活動する義務がある(5)。  ケア基準──合理的で賢明な人物が同様の状況下で行うであろうこと。ストレングス&コンディショニング専門職は、教育、トレーニングレベル、資格(例:CSCS、NSCA-CPT、EMT、CPR、First Aid)に応じて活動することが期待される。  過失──合理的で賢明な人物が同様の状況下で行うであろうことをしなかったこと。ストレングス&コンディショニング専門職の過失とみなされる要素として、義務、義務不履行、近因、損害の4つがある(20)。そのストレングス&コンディショニング専門職に行動を起こす義務があり、適切なケア基準に従って行動することを怠ったため(義務不履行)、予測可能な事象の自然な結果により(近因)、他者に対して(身体的もしくは経済的な)損害を与えたことが明らかになった場合に過失とされる。たとえば、あるストレングス&コンディショニング専門職がレジスタンストレーニングマシーンのケーブルがかなり磨耗していることを見ていたが、「故障中」の掲示をしなかったとする。ある選手がそのマシーンを使用し、傷害を負った場合、そのストレングス&コンディショニング専門職には過失があったと判断される可能性がある。その専門職の義務は、ケーブルを修理する(修理を手配する)か、「故障」の掲示をすることであったが、行動に移さず、害を及ぼす危険性のある壊れかけたケーブルによって、選手が傷害を負っている。  リスクの引き受け──活動への参加にはリスクが内在することを認識し、いずれにせよ活動への参加を任意に決定すること(11)。ストレングス&コンディショニングを含むスポーツの活動はすべて、ある程度のリスクを含む。選手は、リスクについて徹底的に情報を伝えられ、その趣旨の文書に署名しなければならない。 事前スクリーニングおよび医師の許可  選手はストレングス&コンディショニング施設の利用にあたって、関連する統括組織(例:NCAA、スポーツ医学スタッフの組織、高校のスポーツ協会)の要求に従ってメディカルチェックを受け、許可を得なければならない。この要求は、Strength and Conditioning Professional Standards and Guidelines(20)のセクション1に基づく。基準1.1「選手は参加前に必ず医療従事者のメディカルチェックを受け、許可を受けなければならない」。ストレングス&コンディショニング専門職は、健康診断結果のコピーを求める必要はないが、参加を許可する医師からの証明書を受け取る必要がある。傷害や疾病から復帰しようとしている選手、特別の対応が必要な選手(例:糖尿病、喘息、てんかん、高血圧症)に対しても、ストレングス&コンディショニングプログラムの開始前、またはプログラムへの復帰前に医師の許可を得ているかを確認するべきである。  各選手がスポーツ医学スタッフによるスクリーニングを受け、参加を許可されたことを記録として確認する書類は、選手の参加前にストレングス&コンディショニングプログラムのメインオフィスに保管しておく手順とする。ただし、選手に対してストレングス&コンディショニングプログラムへの正式な参加を許可するのは、スポーツ医学スタッフ(例:チームまたはプログラムに関与する、資格を持ったアスレティックトレーナー、医師、理学療法士)の責任においてである。このことは、学校という場において、編入学で学校およびプログラムに新しく入る選手、傷害や疾病から復帰しようとしている選手の両方にあてはまる。個人の医学的(健康)状態の分析・評価は、ストレングス&コンディショニング専門職の実践範囲(厳密な法的範囲および専門的職務)ではないため、この規定は重要となる。つまり、参加に関する医学的診断(とそれについての証明)を与えることができ、参加に関係するあらゆる疑問にも答えられるのは、スポーツ医学スタッフだけである。 適格基準  ストレングス&コンディショニングスタッフが、対象となるトレーニング参加者に注意と努力を集中できるように、適格基準を確立しておく。以下に、ストレングス&コンディショニング施設の使用を認められる典型的な個人・集団を挙げる。  ・アスレティックデパートメントが後援するスポーツクラブに参加しているフルタイムもしくはパートタイムの学生選手。  ・学校に在学届を提出し、ヘッドコーチによってチームへの参加が承認された次期新入生、または編入してきた選手。  ・体育の授業の学生。  ・アスレティックデパートメントに所属するコーチおよび運営スタッフ。  ・スポーツ医学部門のスタッフ。  ・適格基準を満たし、アスレティックデパートメントが後援するクラブにかつて参加していた卒業生選手。  ・アスレティックデパートメント、またはストレングス&コンディショニングのディレクターによって承認された個人およびグループ。  これ以外の個人あるいはグループが、ストレングス&コンディショニング施設の利用を希望する場合がある。その場合、その個人あるいはグループはアスレティックデパートメントあるいはストレングス&コンディショニングのディレクターによる事前の認可を得なければならず、適切な管理のために、施設をいつ利用するかを、施設利用に先立って決めなければならない。一貫性と客観性を保つために、ケースバイケースで決定するのではなく、参照する方針を定めておくほうがよい。施設利用料にも関係する場合もあり、このような方針はとくに重要である。外部団体によるストレングス&コンディショニング施設の使用の可否を決定するうえで共通する基準の例を以下に示す。  ・アスレティックデパートメントのディレクターによってあらかじめ使用が認可されていなければならない。  ・ストレングス&コンディショニングディレクターによってあらかじめ使用が認可されていなければならない。  ・ストレングス&コンディショニングスタッフが、プログラムもしくはセッションを監督しなければならない。  ・プログラムもしくはセッションは、選手が使用しない時間帯に設定しなければならない。  ・使用する個人または団体は、損害賠償保険証を提出しなければならない。  ・参加者は全員が免責同意書に署名しなければならない。賠償責任免責同意書の書式例を図24.5に示す。こういった書面を使用する前に、現行の地方および国における法律に適合しているか確認すること。  ・参加者は全員ストレングス&コンディショニング施設の規則・規制に従わなければならない。  ・アスレティックデパートメントのディレクター、ストレングス&コンディショニングディレクターは、正当な理由があれば個人または団体の施設利用を制限する権限がある。 記録の管理  記録書類は、ストレングス&コンディショニング施設の効率的な運営において必須である。清掃やメンテナンス、安全手順に関する書類、メーカーの保証書やガイドライン、リスクの引き受けに関する書類、医学的免責同意書や健康診断の結果を示す書類、スタッフの資格証明書、専門的なガイドラインや推奨事項(例:ウェイトベルトの使用、レジスタンストレーニングのテクニック)、傷害発生報告書などのファイルを、安全に保管しておくべきである(20)。傷害発生報告書は、傷害に対する訴訟に備えてできるだけ長期間保管するべきである。個人が民事訴訟を起こすことができる期限(出訴期限)は、州によって、また国によって異なる。したがって、ファイルは無期限に保管するか、あるいは法律関係当局に確認するとよい(12)。 責任保険  競技への参加による傷害発生の可能性があるため、ストレングス&コンディショニングスタッフは専門職賠償責任保険への加入が不可欠である(とくに、施設の方針でその部分がカバーされない場合)。賠償責任保険とは、契約上の保証であり、加入者が保険料を払い込むのと引き換えに、保険業者は定義された賠償責任のリスクに由来する損害に対して、定義された金額を上限として保険業者のコストによって弁護および補償を行うというものである。ストレングス&コンディショニング専門職は人事部長、法律コンサルタント、専門職団体(例:NSCA)に相談し、詳しい情報を得るべきである。  >保険とは、契約上の保証であり、加入者が保険料を払い込むのと引き換えに、保険業者は定義された賠償責任のリスクに由来する損害に対して、定義された金額を上限として保険業者のコストによって弁護および補償を行うというものである。 製造物責任  製造物責任とは、製品使用の結果として傷害または損害を被った場合の製造元または販売元の法的な責任を指す(1)。ストレングス&コンディショニング専門職は製品を製造・販売しているわけではないにしても、製造物責任訴訟で共同被告人の対象となり得る。したがって、ストレングス&コンディショニング専門職は、製造物責任の概念と自分自身が訴訟のリスクをこうむる可能性のある行動を理解することが重要である。製造物責任は製品のメーカーまたは販売元にのみ当てはまるが、メーカーまたは販売元の責任を無効にし、ストレングス&コンディショニング専門職に責任がかかるとされる行為も存在する。メーカーまたは販売元の責任の有無を考慮するうえで重要事項となる2点が、製品が販売時の状態から改造されていたかどうか、またメーカーの意図通りに使用されたかどうか、である(5)。ストレングス&コンディショニング機器によって引き起こされる選手の傷害を回避するために、次の段階を踏む。  ・メーカーの意図している目的のみに機器を使用する。利用者の年齢や体格の指定を含む、機器に付属するメーカーの使用説明書を参照する。  ・機器が現在の専門基準とガイドラインを満たしていることを確認する。専門団体や専門家によって安全性が低い、あるいは効果的でないとされている機器は購入・使用しない。機器のリコールに注意し、リコール対象となった機器はただちにメーカーに返却する。  ・評判がよいメーカーからのみ購入する。ストレングス&コンディショニング専門職は、そのメーカーあるいは販売元のこれまでの安全性に関する記録を調べ、クレームが起こっていないかを調査しなければならない。こうした情報は、ベター・ビジネス・ビューロー(米国商事改善協会)、ストレングス&コンディショニング専門職たち、専門職団体などから得られる。  ・改造方法が明確に指定されておらず、改造指示が製品情報に含まれていなければ、機器を改造してはならない。機器によっては、フィッティングなど特定のニーズに合わせて改造するように設計されているが、その場合は改造指示に正確に従わなければならない。  ・新規購入機器には付属の警告表示をすべて掲示する。警告ラベルがマシーンのすぐ目につく位置に貼られていない状況で使用者が負傷した(その傷害が警告ラベルに明記されている内容に関するものであった)場合、ストレングス&コンディショニング専門職に責任ありと判決が下される可能性がある。  ・故障や磨耗など、選手を傷害のリスクにさらすかもしれない問題が機器にないかを定期的に細かくチェックする。潜在的な問題を認識するためには、ストレングス&コンディショニング専門職が機器の目的や機能(性能)、制限因子について、さらには、傷害を引き起こす機器の使用法について理解しなければならない。新規購入した機器は、使用前に必ず点検する。新しい機器が壊れた状態で到着した場合は、ただちにメーカーか販売元に連絡し、交換させる。現存する機器が破損した場合は、修理または交換するために撤去する。機器が大きすぎて移動できない、保管場所が確保できないといった場合には、使用不可の掲示を機器に貼る。  ・監督下にない選手には機器を使用させない。ストレングス&コンディショニング専門職が選手を常に管理・監督することで、意図された目的に沿った適切なテクニックでの機器の使用が確実なものとなる(20)。 規律  ストレングス&コンディショニングディレクターは、選手が施設規則を理解し、厳守する意思を確認するために、施設を利用する前にすべての規則に同意するサインを選手に求めてもよい。このプロセスによって、影響を予想できずに行った誤った行動による問題発生を減らすことができる。規則を実施する際には、違反の内容に応じて課される懲戒を定め、掲示および文書化する必要がある。エクササイズやコンディショニングの身体活動を罰として用いることは推奨されない。大学のコンディショニングセッションにおける突然死予防のための団体間提携タスクフォース(Inter-Association Task Force for Preventing Sudden Death in Collegiate Conditioning Sessions)によると、「どのような状況であっても、競技選手に傷害や突然死という身体的なリスクを高める身体的な義務を追加して課すべきではない」(p.478)としている。下記は繰り返される違反に適用された段階的な罰則の例である(7)(この種の方針は、アスレティックデパートメントのディレクターや競技コーチら全員の全面的な支援と関与により確立される。一般に、1回目、2回目の違反ではストレングス&コンディショニングスタッフが懲戒処置を課す必要はなく、そうした状況では、競技コーチが対処を望むことが大半である)。  ・1回目の違反:スタッフによる口頭での警告、違反した規則あるいはガイドラインの本質や重要性についての説明、さらに2回目の違反を起こした場合の懲戒処置の勧告。  ・2回目の違反:1日の施設利用禁止、スタッフによる違反の文書化、競技コーチへの連絡、3回目の違反が起こった場合の懲戒処置の勧告。  ・3回目の違反:1週間の施設利用禁止、スタッフによる違反の文書化、競技コーチへの連絡、4回目の違反が起こった場合の懲戒処置の勧告。  ・4回目の違反:その年の施設利用禁止、スタッフによる違反の文書化、競技コーチとアスレティック部門のディレクターへの連絡、5回目の違反が起こった場合の懲戒処置に関する勧告。  ・5回目の違反:施設からの永久追放、スタッフによる違反の文書化、競技コーチおよびアスレティック部門のディレクターへの連絡。 サプリメント、エルゴジェニックエイド、禁止物質  ストレングス&コンディショニング専門職は、栄養とサプリメントのアドバイスを求められることが一般的である。ストレングス&コンディショニング専門職はNSCA倫理規定を守ることが期待される。Strength and Conditioning Professional Standards and Guidelinesの基準9.1には、以下のように記述されている。  ストレングス&コンディショニング専門職は、非合法あるいは禁止された有害な競技パフォーマンス向上やコンディショニング、体格(physique)といったものを含むどのような目的であっても、薬や規制された物質、サプリメントを処方あるいは推奨、提供すべきではない。合法で科学的に有益であり、あるいは少なくとも害をなさない物質のみ、ストレングス&コンディショニング専門職によって、参加者へと推奨もしくは提供されることがあるかもしれない。その場合も、18歳以上のみが対象である。  ルールおよび規制については、競技の統括団体(例:NCAA、米国オリンピック委員会、MLB、NBA、NFL、NHL)によって異なる。ストレングス&コンディショニング専門職は、最新のルールおよび規制について知るとともに、栄養的サプリメントの効果を支持または否定する科学的エビデンスを探すべきである。ストレングス&コンディショニング専門職は、栄養的サプリメントについてスポーツ栄養士に相談すべきである。 スタッフの方針と活動  ここでは、ストレングス&コンディショニング施設において一般的に確立されたさまざまな運営方針や、一般的に行われている活動について論じる。この情報は参照用としてのみ提供されるものである。各ストレングス&コンディショニング施設の特徴に応じて、それぞれ独自の運営方針や活動が適用されるだろう。 オリエンテーションミーティング  一般に、新年度もしくはシーズンの開始時に、ストレングス&コンディショニング施設の最初の使用の前に、選手と競技コーチを対象としたオリエンテーションミーティングを実施する。このミーティングでは、ディレクターが、施設およびスタッフの電話番号を伝え、スタッフの仕事(目標や目的、プログラムのミッション)、チームトレーニングのスケジュールを含む業務時間、施設規則、懲罰の対象となる行為、緊急時の手順などについて説明する。参加前および適格性の必要条件について説明を行うべきである。ストレングストレーニングのオリエンテーションでは、(補助を行うのが適切な場合における)補助のテクニック、正しいエクササイズテクニック、不適切あるいは不注意なエクササイズあるいは補助に伴う一般的なリスクを含めた適切な設備・備品の使用についても含めるべきである。 報告および文書化  前述したように、適切な文書化と記録を残すことは、ストレングス&コンディショニングプログラムおよび施設の管理およびモニターにおいて不可欠である。緊急事態あるいは傷害が発生した場合に備えて、リスクマネジメントのための指揮命令系統を確立しておくことは重要である。これには、コーチ、ディレクターオブストレングス&コンディショニング、スポーツ医学関係者、アスレティックディレクターが含まれるだろう。参加者のプライバシーと機密の保護に大きな努力を払うべきである。医療保険の相互運用性と説明責任に関する法律(HIPAA)といった米国連邦法を順守し、参加者のヘルスケア情報は書面による許可なく開示されない。この情報には、スポーツ医学スタッフによる傷害報告書も含まれる。傷害発生時には、インシデント-傷害報告のフォームに記入し、ファイルを保管すべきである(19)。  このほか、ストレングス&コンディショニングプログラムを運用するうえで重要となる書類には、以下が含まれる(20)。  ・資格証明書  ・専門職の基準とガイドライン  ・運用と安全のための方針および手順(書面化された緊急時の計画)  ・メーカーから提供される備品の取扱説明書(保証書、運用ガイドライン、導入、設定)  ・設備・備品、施設のメンテナンス(点検、メンテナンス、清掃、修理)  ・事前の医師による許可  ・参加への復帰の許可  ・インフォームドコンセント(十分な説明を受けたうえでの同意書)、ウェイバー(免責同意書)、個人連絡先  ・トレーニングの記録、評価、指導ノート  参加者は、オリエンテーションミーティングにおいて、これらの法的な書類に記入およびサインすべきである。 倫理規定とプロ意識  倫理規定には、専門職が責任をもつべき基準および原則が含まれている。ほとんどの専門職組織は、倫理規定や行動規範を持っており、メンバーはこれらに従い、業務上の実践においてこれらを適用することに合意しなければならない(17)。これらの規定は、プロフェッショナリズム(プロ意識)と高い倫理的行動基準を確立しつつ、各個人の権利と尊厳を守ることを意図している。ストレングス&コンディショニング専門職は、NSCA倫理規定とともに、適用されるのであれば所属機関の倫理規定や学生選手の行動規範について熟知すべきである。一般的に、競技選手の福祉が最も重視される。いじめやしごき、ソーシャルメディアのガイドラインもまた対処される。加えて、服装やドレスコード、電話、パーソナルでのワークアウト、会社の設備・備品の個人使用に特化した方針や、コーチと選手間、コーチとインターン間、コーチと競技コーチ間の関係や、ウェイトルームにおける選手の行動についての基準を示すことも考慮する(4,18)。これらの明文化された原則は、ストレングス&コンディショニングプログラムの効率を高めつつ、基準の品位を高くすることを意図している。 指導と監督  資格を持つストレングス&コンディショニング専門職が、安全で有効なストレングス&コンディショニングテクニックを選手に適切に指導しなければならない。指導では、安全な方法で選手にスキルを教え、必要ならば修正を加える。レジスタンストレーニングでは、挙上するウェイトの量より安全で正しいテクニックを重視することが、傷害の発生、そしてその結果生じる責任問題の発生の抑制につながる。指導の方法や手順、漸進は、専門的なガイドラインと基準に合致しているものを用いる(5)。  さらに、最大限のパフォーマンスや安全性、指導に到達するためには、直接的な監督が求められる。スタッフメンバーは、明確にコミュニケーションを行う能力と、選手と監督する区域(施設全体でない場合)の両方を見る能力を持っておかなくてはならない。安全装置を適切に使用するとともに、補助者が必要である(19)。フリーウェイトが継続して体幹の上にある、あるいは顔面および頭の上をウェイトが動くエクササイズを行う場合、スタッフは安全かつ適切に、また効果的に補助を行うために、選手と効果的なコミュニケーションを取るべきである。監督の原則には、以下が含まれる(5)。  ・常にそこにいること。  ・行動的かつ現場主義的であること(手を動かすこと)。  ・慎重かつ用心深く、準備万端であること。  ・能力(資格)があること。  ・気を配ること。  ・参加者に安全と緊急時の手順について知らせること。  ・参加者の健康状態について知ること。  ・ルールと規則を守らせること。  ・環境をモニターし、詳細に調べる。  Strength and Conditioning Professional Standards and Guidelinesのガイドライン3.1には、以下のように記述されている。  ストレングス&コンディショニングの活動は、計画されるべきであり、また利用のピーク時において必要な数の資格を持つスタッフや、参加者あたりの平均床面積(100平方フィート。訳注:9.3m^2)、専門職-参加者比(中学校で1:10、高校で1:15、大学で1:20)、参加者数に対してバーベル数やトレーニングステーション数のガイドラインを満たすべきである。  選手が負傷した際の裁判では、推定で80%において監督に関する言及がなされている(5)。不適切な指導や監督が主因であることがしばしばある。選手は全員が常に監督下にあるべきで、それには活動すべてを監視する、資格を持ったストレングス&コンディショニング専門職が実際の現場にいることが求められる(12,13,15)。適切に監督を実施するためには、施設と選手がはっきりと見える位置に監督ステーションを設置する必要がある(17)。また、推奨されるスタッフ-選手比を遵守しなければならないが、これはトレーニングの種類によって異なる。たとえば、選手のグループがマシーンサーキットトレーニングを行っている場合、フリーウェイトのリフティングを行う選手ほどの監督は必要とされない。また、トレーニング歴の短い選手は、ウェイトルームでの経験の長い選手よりも監督をより必要とする。  監督がパフォーマンスに及ぼす影響については、監督の比率がより低い中でトレーニングを行った被験者よりも、(監督の比率が高い被験者のほうが)筋力増加が大きかった(10)。従業員および実践者は、安全性およびパフォーマンス獲得において人員配置が重要であること、また実際には適切な比率はさまざまな理由により常に可能ではないこと、できる限り早く適切な比率の目標へ到達できるよう継続的に取り組むことが現実的であることを理解すべきである。  ストレングス&コンディショニング専門職は、チーム練習や試合、チームの移動への帯同を要請されることが一般的である。施設のコーチ-選手比を低下させない限りにおいて、こうしたことへの参加は奨励されるべきである。  >傷害発生のリスクは完全に排除できないが、ストレングス&コンディショニング専門職はそのリスクを効果的に管理することができる。 プログラムデザイン  効果的なストレングス&コンディショニングプログラムは、意図する結果を伴って競技に特異的なパフォーマンスを促進し、ケガへの耐性を高めるために科学的原理に基づくべきである(6)。プログラムの強度は、NSCAの基準およびガイドラインの範囲内とすべきである。ストレングス&コンディショニングトレーニング計画を作成する際には、情報源として第14章から第21章、そしてNSCAのさまざまなポジションペーパーを参照いただきたい。ディレクターオブストレングス&コンディショニングは、リコンディショニングを含めたすべてのパフォーマンストレーニングプログラムを監督およびモニターしなければならない。チームがプログラムを開始する前に、スタッフがデザインした全プログラム(例:実施するエクササイズのリスト)のコピーをディレクターのオフィスに保管しておかなければならない(18)。 ワークアウトシート(ワークアウトカード)  ワークアウトシートの作成過程は、ストレングス&コンディショニングプログラムによって異なる。ストレングス&コンディショニング活動は、事前に決めておくべきであり、したがって選手はトレーニングするときには承認されたワークアウトシートを持つべきである。追加的なワークアウトは、適切な強度および量-負荷についてモニターされることを確実にするため、監督しているストレングス&コンディショニングコーチによる承認が必要である。ストレングス&コンディショニングスタッフは、各選手のワークアウトシートに記載されている全エクササイズに精通していなければならない。また、ディレクターやスポーツ医学スタッフから指示が出されない限り、ワークアウトシートに記載されていないエクササイズを行うように選手に勧めてはならず、また指示が出された場合にはセッション後すぐに文書化するようにする。ディレクターは、プリオメトリックス、アジリティ、スピード向上ドリルを含めたチームのワークシートに記載されている各エクササイズについて、エクササイズの動作テクニックを選手にどのように教えるかをスタッフに通知し、デモンストレーション、指導を行う必要がある。さらなる監督のために、実践者は基礎エクササイズの最後のセットをスタッフメンバーに見てもらい、正しく行えているかを確認するよう求めることを考慮するかもしれない。トレーニングプログラムを実施する際には、一貫した用語の使い方(言い回し)を確立することが推奨される。 施設運営  ストレングス&コンディショニング施設の運営規則は、安全かつ清潔で専門的なトレーニング環境を提供するという目標に向けて、施設内での行為や行動、秩序、プログラムの進行に関するガイドラインを利用者に提供するために重要である。一般的な施設規則とガイドラインのリストは図24.6を参照してほしい。こうしたリストは、施設利用者が簡単に見ることができるトレーニングエリアに掲示するべきである。  各ストレングス&コンディショニング施設はそれぞれ独自の特徴を持っており、それぞれ独自の運営方針や活動が適用されるということを理解しておく。利用できる設備および備品や、施設の大きさ、チームの規模により、コーチに伴う理論的な困難さや業務時間が示される。ワークアウトのフォーマットは、スケジュール決定における最大の選手数に影響を受けることを考慮すべきである。とくに小さな大学や高校では、適切な監督の比率を満たしつつ利用可能な設備・備品と時間に基づき、実践者が最大数の選手とともに働くことができるようにすることがストレングス&コンディショニングプログラムを構成する際の目標である。どのような場合であっても、チームのトレーニング時間における優先順位は、そのチームが現在どのシーズンであるかによって決まる。典型的には、インシーズンのチームはトレーニングのスケジュールが練習や試合のスケジュールを中心として決まっていくため、オフシーズンのチームよりも優先となる。オフシーズンのチームは、もし施設が一度に複数のチームを収容できない場合、譲歩して朝早い時間帯にトレーニングしなければならないかもしれない。  解決策の1つが、月-水-金の形式でオフシーズンのチームに割り当て、インシーズンのチームは火-水に割り当てるというものである。もし金曜日の試合が、大会組織により変更されたら、第2のシナリオは、オフシーズンのチームの一部を月-火-木に割り当て、別の一部を火-木-金に割り当てるというものである。これにより、インシーズンのチームは月-水に施設を使うことができる。オフシーズンのチームを午後の練習時間にすることも考慮する。インシーズンのチームが施設の過密を軽減するためにスケジュールを前後にずらしてもよい(3)。  施設の業務開始および終了時の手順や方針は、ストレングス&コンディショニング施設の日々の業務や点検、清掃に基礎を置く。加えて、休日や所属機関の学業のカレンダー、音響の使用、オフィスアワー(業務時間)、倉庫、スタッフのロッカールームの活動についての詳細な業務手順を示すことを考慮すべきである。繰り返しとなるが、これらの明文化された原則は、プログラムの有効性を促進しながら施設の効率を高めることを意図している(19)。 緊急時の計画と対応  ケア基準を提供することは、責任を共有するということであるが、共有するのは医学関係者や競技コーチ、ストレングス&コンディショニング専門職、運営担当、機関のみに限定されない。緊急事態が発生したとき、生命の安全は常に最優先である。競技における負傷を含めた緊急事態は、活動中はいつでもどこでも起こり得るということを覚えておく。環境的な状況や、生命に関わる、または関わらない状況のための文書化した対応計画を持っておくと、緊急時において適切な手順を示し、それに従って実際に行うためのガイドラインとなってくれるだろう。この緊急時対応計画とは、傷害発生時の対処の適切な手続きを詳述した文書である。ストレングス&コンディショニング施設内の人員は全員が緊急時対応計画を理解し、緊急時の正しい対処法を知っていなければならない。 緊急時対応計画の構成要素  以下には、緊急時対応計画に含まれる、もしくは記述される典型的な項目を示した。  ・EMS(緊急医療サービス)発動の手順(訳注:救急車の要請の緊急通報など)。  ・第一、第二、第三に連絡をとるべき人の名前と電話番号。  ・ストレングス&コンディショニング施設の具体的な所在地(緊急医療サービスに伝えるため)。  ・電話の位置。  ・最も近い出口の位置。  ・傷害に対処することのできる資格を持った人員(つまりスポーツ医学スタッフ)の指定。  ・救急車の進入路。  ・救急用資機材と救急箱(ファーストエイドキット)の位置。  ・火事、竜巻、生命に関わるケガ、犯罪、テロなどが起こった場合の行動計画。  はっきり目に見える位置に救急医療計画を掲示することに加えて、ストレングス&コンディショニング専門職は全員が最新の応急処置(First Aid)や心肺蘇生法(CPR)の資格を更新し、少なくとも四半期ごとに緊急時対応計画の訓練を行うことが重要である。 緊急時の人員  働く人たちがお互いに協力し、準備しておく医学的な担当範囲の適切なニーズについて考慮し、計画を確立する。緊急時対応計画には、タイミングよく状況を評価するための医師への即時の連絡あるいは連絡の計画を含んでいるべきである。ファーストレスポンダー(初期対応者)として、ストレングス&コンディショニング専門職その他の実践やスキル指導、ストレングス&コンディショニングに関わる人は、標準的なファーストエイド(応急処置)やCPR、AEDを含めた専門資格を取得し、維持すべきである(6,20)。 緊急時のコミュニケーション  直接的なコミュニケーションの経路を確立し、バックアップの計画を作成すること。即時的なコミュニケーションが、緊急時のケアを素早く手配するのに重要である。電話(固定電話や携帯電話)へのアクセスは、もし医学関係者がその場にいないときは実行可能な選択肢の1つである。ストレングス&コンディショニングプログラムの参加者と監督する者は、施設内外の最寄りの機能する電話がどこにあるか知っておくべきである(6,20)。 救急用資機材  救急用資機材は、緊急事態においてすぐに使えるべきである。標準的ファーストエイド(応急処置)、CPR、AEDの専門資格を維持することは、前もって適切に使用するための訓練を受けていることを意味する。ファーストレスポンダーは、定期的にリハーサルを行うべきである。加えて、参加者の緊急時の情報は、医学関係者によってすぐにアクセスできるべきである(20)。 緊急チーム内の役割  それぞれの施設ごとに専門職が緊急時計画を作成することが推奨される。表24.2に、緊急時の手順の計画例を示す。緊急時対策は、非常事態を収拾するための方策のリスト化、緊急チームの一員として連絡するべき重要人物の名前と肩書き、電話番号のリストの準備などが含まれる。各個人の役割は異なるかもしれないが、役割について理解しておくことによって、緊急チームが効果的に機能することが可能となる。  緊急チームには4つの主な役割がある。緊急時においては時間が最も重要な要因であるため、1つ目は、選手への即時の処置である。2つ目は救急用資機材を手配し運んでくることであり、施設利用者は資機材の種類と所在について参加前に知っておくべきである。3つ目は緊急医療システム(EMS、救急車など)を発動することである。繰り返すが、緊急移送手段が常にその場にあるとは限らないため、直接連絡がつく方法を確立しておくこと。最後の4つ目は、救急車を呼ぶ人は、オリエンテーションミーティングで施設の所在地について、熟知しているべきである。これによって、救急隊が直接現場へ到着することが容易となる。施設への素早い到着と医療機関への搬送のために、明確な経路と直接的な動線を確立しておくこと。 まとめ  ストレングス&コンディショニングプログラムの方向性と意図はその目標によって決まる。またプログラムの目的が、目標に向けた段階を定めること、そしてプログラムの進行の手助けとなる。目標と目的に基づいて方針と手順が作成され、参加者とスタッフの行動が導かれ、安全なトレーニング環境が提供されることにつながる。ストレングス&コンディショニング施設についての適切な文書がきちんと集められておらず、適切なメンテナンスが行われていないと、傷害に対する法的な責任が発生する。事前の適切な警告がないまま傷害が発生した場合、過失を主張される場合がある。ストレングス&コンディショニング専門職は、ストレングス&コンディショニング施設における日々の業務の中でさまざまな責任を負っており、これには製造物賠償責任の可能性を減らすためにすべての設備・備品が適切に機能するかを確認し、修理する(修理を手配する)ことも含まれる。選手とストレングス&コンディショニングスタッフに方向性を示し、訴訟の可能性を最小限にするために、本章で紹介した項目に対して提示したガイドラインをもとに、それぞれの施設が独自の運営方針と手順マニュアルを作成するべきである。 重要語句  リスクの引き受け(assumption of risk)  義務不履行(breach of duty)  損害(damages)  義務(duty)  緊急時対応計画(emergency action plan)  インフォームドコンセント(informed consent)  責任(liability)  訴訟(litigation)  ミッションステートメント(mission statement)  過失(negligence)  方針(policies)  手順(procedures)  製造物責任(product liability)  プログラムの目標(program goals)  プログラムの目的(program objectives)  近因(proximate cause)  リスクマネジメント(危機管理)(risk management)  実践範囲(scope of practice)  ケア基準(standard of care)  出訴期限(時効)(statute of limitations) 例題  1. ウェイトルームがピークとなる時間帯において、推奨されるコーチ-参加者比は以下のどれか。  a. 1:10  b. 1:15  c. 1:20  d. 1:25  2. 選手がストレングス&コンディショニングプログラムへ正式に参加することを許可するのは、以下のうちどの職種か。  a. アスレティックディレクター  b. 選手の両親あるいは保護者  c. チームの公認アスレテックトレーナー  d. ストレングス&コンディショニング専門職  3. 適切な文書化は、ストレングス&コンディショニング施設において必須である。ストレングス&コンディショニング施設において、ファイル(保管)すべき書類ではないのは、以下のうちどれか?  a. メーカーからのユーザーズマニュアル  b. 参加者のトレーニング記録  c. 文書化された緊急時の計画  d. 医学的な既往歴  4. ストレングス&コンディショニング専門職の知識およびスキルに含まれるコンピテンシー(職務上の能力)ではないものはどれか。  a. 運動およびスポーツ科学  b. 運営と管理  c. 財務および査定  d. 教育およびコーチング  5. 緊急時計画の構成要素ではないものは、以下のうちどれか?  a. 救急医学  b. 緊急時のコミュニケーション  c. 救急用資機材  d. 緊急時の人員