第21章 ピリオダイゼーション G. Gregory Haff, PhD  著者は、本章の執筆にあたって多大な貢献をいただいたDan Wathen、Thomas R. Baechle、Roger W. Earleに対し、ここに感謝の意を表します。 本章を終えると  トレーニングのピリオダイゼーションを下支えする中心的な概念を理解することができる。  ・ストレングス&コンディショニングプログラムにおけるピリオダイゼーションの意義、役割、適用の方法を理解することができる。  ・伝統的なピリオダイゼーションモデルの4つの期を示すことができる。  ・伝統的なピリオダイゼーションモデルの準備期における3つの段階を示すことができる。  ・伝統的なピリオダイゼーションモデルの4つの期の区分と4つの競技シーズンを関連づけることができる。  ・プログラムデザインの変数を適用して期分けされたトレーニングプログラムを作成することができる。  パフォーマンスの促進に必要な生理学的適応を刺激するうえでストレングス&コンディショニングプログラムが持つ能力は、適応の応答を促進するためにトレーニングストレッサーを調節することと、パフォーマンスの頭打ち(プラトー)あるいはオーバートレーニングの可能性を減らすことに大きく関係している。トレーニング負荷の管理を誤ると、ケガのリスクとオーバートレーニングの可能性が高まる(46)。最終的に、競技選手がよりトレーニングを積むほど、あるいはトレーニング歴が長くなるほど、パフォーマンス獲得を刺激するのがより難しくなる。したがって長期的なトレーニングとパフォーマンス獲得を促進するために、より上級の選手のトレーニングプログラムには変化をつけることがしばしば要求される(3,59)。この要求に合致させるために、体系的かつ事前に計画された方法で構築され、トレーニング量や強度、頻度、密度、焦点、様式、エクササイズ選択に変化がつけられるよう、選手のニーズや競技の要求にしたがってトレーニングプログラムは論理的にデザインされる必要がある。トレーニング介入の効率的なプログラム作成を行う際に中心となるのが、ピリオダイゼーションの概念である(28)。ピリオダイゼーションは、1960年代にピリオダイゼーションを下支えする基礎理論を提唱したLeonid Matveyev(43)の貢献によるものであるとしばしば言及される。Matveyevはしばしばピリオダイゼーションの父であるとみなされるが、同時期にその概念について探求した者の中に、László Nádori(48)、Tudor Bompa(2)、Yuri Verkoshansky(64)がいる。後に、米国のスポーツ科学者であるMichael H. Stone、Harold O’Bryant、John Garhammerが初期のピリオダイゼーション理論家らの概念を、とくにストレングス&パワー選手に適用した(57,58)。結局のところ、ピリオダイゼーションはパフォーマンスの成果を下支えする、特異的な生理学的適応を引き起こすための相互に依存する期間への体系的に順序立てられた、統合的なトレーニング介入を可能とする、理論的および実践的構造である。  本章では、ストレングス&コンディショニングプログラムにおけるピリオダイゼーションの概念について議論する。ピリオダイゼーションの理論と、それらがどのようにトレーニングプログラムのデザインに適用されるかを理解するために、身体がどのようにトレーニング(すなわちストレッサー)に反応するかの理解を深めることが必須である(24,28)。このトピックについて最初に議論する。次に、どのようにトレーニング年がより小さなブロック(それぞれがトレーニング目標と優先順位を持つ)へと分割されるかを示すために、ピリオダイゼーショントレーニングプログラムの基本的な階層構造について議論される。このトレーニングのスケジュール全体が、全般的なコンディショニングや競技特異的な身体活動、レジスタンストレーニングといった、その選手のトレーニングプログラムのすべての側面を包含することに注意することが重要である。最後に、本章の後半では1年間にわたって期分けされたストレングス&コンディショニングプログラムの詳細な例を示す。このプログラムを正確に理解するために、あらかじめ第17章を読むことを勧める。 ピリオダイゼーションに関連する中心的な概念  成果を挙げるトレーニングプログラムとは、構造化された方法で行われる特異的な介入に対する適応および回復の応答を管理できるものである(28)。最終的に成功するトレーニングプログラムは、どのようなものであっても特異的な生理学的適応を引き起こし、それらの適応をパフォーマンス向上へと転移する能力を中心に据えている。適応という応答を管理し、蓄積疲労に対処し、遭遇する多様なトレーニング要因から生まれる後作用(aftereffects)を活用する能力こそ、この過程の中心である。期分けされたトレーニング計画の強みは、これらすべての要因を管理し、パフォーマンスを適切な時点でピークにするためにトレーニング介入を順序立て構造化する能力にある(4-6,51,59,63)。最終的に、ピークパフォーマンスを最適化できるのは短期間のみ(7〜14日間)であり、それが維持される平均的な時間はトレーニング計画の平均的な強度に反比例する(17,33,59)。期分けされたトレーニングモデルがこれらの要因をどのように管理できるかを説明するうえで、3つの基礎的なメカニズムについて理論立てされている。すなわち、汎適応症候群(GAS)、刺激-疲労-回復-適応理論、フィットネス-疲労パラダイムである(22,28,59,65)。  >ピリオダイゼーションとは、パフォーマンスを適切な時点でピークにするために行われるトレーニング介入を順序立て、統合する論理的で体系的な過程のことである。 汎適応症候群  1956年、強いストレス刺激が及ぼす生物学的な影響について先駆的な研究を行ったHans Selyeは、3段階のストレスへの応答(警告、抵抗、疲憊)によって定義される、汎適応症候群についての基本的な概念を示した(54,55)。元来は身体的トレーニングの文脈において概念化されたものではなかったが、時間が経つにつれて汎適応症候群はピリオダイゼーション理論が発展する際にその基礎をなす概念の1つとなった(21,59)。身体が新たなストレスや今まで以上に強いストレス(これまで以上に重い負荷を上げる、大きな量-負荷が加わるなど。第17章を参照)を経験すると、最初の反応、すなわち警告段階において疲労の蓄積、痛み、張り、エネルギー貯蔵の減少が生じ、パフォーマンス能力の低下という結果となる(59)。選手が受けたストレスの程度によって、この反応は数時間から数日、数週間にわたって続く。この最初の反応に続いて抵抗段階、すなわち身体が刺激に適応し、通常の機能を取り戻していく段階へと移行する。もしそのトレーニングストレスが適切に構築されており、過剰でなければ、これらの適応反応は選手のパフォーマンス能力をさらに高め、特異的な生化学的・構造的・力学的な調整が起こるという結果となり、これは超回復と呼ばれている(58)。  しかし、ストレスが長期にわたって継続すると疲憊段階へと移行することがある。もしこれが起こると、選手は課せられたストレスに適応することができなくなり、いくつかの警告段階と同じ症状を示す。最終的に、選手が疲憊段階に達したとき、オーバーリーチあるいはオーバートレーニング反応とほぼ同様の経験をする(20)。トレーニングの観点から、過剰な負荷や単調なトレーニング、変化をつけすぎたトレーニングはすべて、疲憊段階を生じる結果となることがある。これに加えて、トレーニングに関連していないストレス(例:職業上の問題、睡眠不足、人間関係、不適切な食事)への反応も、全体的なストレスレベルに影響を及ぼすことがある。最終的に、ストレングス&コンディショニング専門職はトレーニングストレッサーを適切に計画および管理することによって(ピリオダイゼーションによって)汎適応症候群におけるこの疲憊段階に到達するのを避けるよう努めるべきである。実際の特徴(傾き、大きさ、タイミング)は個人によって大きく異なるものの、図21.1は、トレーニング応答における汎適応症候群の基本的な適用について示している。 刺激-疲労-回復-適応理論  刺激-疲労-回復-適応理論は、汎適応症候群を拡張したものであり、トレーニング刺激は全般的な反応を引き起こし(図21.2)、その反応はトレーニングストレッサーの大きさに影響を受けることを示唆している(59)。とくに、全体的な作業負荷の度合いが大きくなるにつれて、疲労はより蓄積し、完全に回復し適応が起こるまでにより大きな遅れが生じる。選手がトレーニング刺激から回復し、その刺激に適応していくにつれて疲労は消失し、準備性とパフォーマンスは高まる。もし新しいトレーニング刺激が導入されないと、退縮あるいはディトレーニング(能力全般が現在のベースラインへと減少すること)の状態がみられる。対照的に、もし新しいトレーニング刺激が導入されると、この過程が繰り返される。この基本的パターンは、期分けされたトレーニング計画内においてトレーニングエクササイズやセッション、日、サイクルに競技選手がさらされればいつでも現れる。回復はトレーニング過程において重要な部分であり、新しいトレーニングやセッションを始める前に必ずしも完全な回復の状態に達する必要はないということに気をつけるべきである(49)。フィットネスを向上あるいは維持しつつ疲労や回復の反応を調整するために、軽い、または重いセッションあるいはトレーニング日を用いることを通して、作業負荷やトレーニング強度を操作することがある(9,19)。概念的に、この理論は順序立てたピリオダイゼーションモデルの基礎としての役割を果たしており、選手の全般的な疲労レベルや回復の割合、トレーニング刺激への適応を調節するために、このモデルはさまざまなトレーニング要因を操作できる。 フィットネス-疲労パラダイム  一般的に、選手の準備性のレベルに影響を及ぼすのは、トレーニング介入への反応において2つの主なトレーニングの後作用(フィットネスと疲労)の合計である(3,14,66)。Zatsiorsky(65)は、これらの関係についてフィットネス-疲労という古典的な説明を示した(図21.3)。最終的に、すべてのトレーニングやセッション、サイクルは疲労とフィットネスの両方の後作用を生み出し、これらの合計が準備性の状態をつくり出す(14,65)。トレーニング負荷が最も高い場合、フィットネスは向上するが、その高い負荷のために付随して疲労の増加も起こる。フィットネスと疲労が合計され、疲労のレベルは、準備性を下げる結果となる。一方で、トレーニングの作業負荷が低い場合、わずかな疲労と最小限のフィットネス向上が生じ、準備性のレベルは低いという結果となる。したがって、トレーニング負荷を体系的な手法で変化させることができるトレーニング負荷の順序立ては重要となる。覚えておくべき重要なことは、疲労はフィットネスより速い割合で消失するということであり、したがってフィットネスを保持しつつ疲労を軽減するうえで適切なトレーニング戦略が用いられた場合に、準備性を高められるということである(25,28)。フィットネス-疲労パラダイムは、疲労やフィットネス、準備性の曲線として古典的に示されるが、各トレーニング要因はフィットネス、疲労、準備性の後作用反応を個々に刺激するようである(14,59)。これらの後作用は、トレーニングの残存効果と考えられ、順序立てられたピリオダイゼーションを用いる際に下支えとなる基礎的な概念としての役割を果たす(25,28)。最終的に、複数のトレーニング期の並びにおける1つのトレーニング期のトレーニングの残存効果は、準備性のレベルに影響を及ぼす可能性があり、これは期分けされたトレーニング計画の全般的な構造によって決まる(28)。 ピリオダイゼーションのヒエラルキー(階層構造)  究極的にはピリオダイゼーションはシンプルにトレーニング介入の計画を整理するための手段であり、プログラムは特定の期間に区分される(表21.1)(22,24)。複数年のトレーニング計画は、ほとんどの時間を網羅するが、トレーニング構造の期分けの中では最も荒い(詳細さに欠ける)計画である。たとえば、その計画には大学アメリカンフットボール選手の新人(1年生)から4年生までの基礎的な漸進が含まれ、また各トレーニング年の中で狙いとする重要な到達目標が含まれているかもしれない。この複数年のトレーニング構造はその後、選手の複数年トレーニング計画に関連する多様な段階やベンチマークに基づく、より詳細な年ごとのトレーニング計画へと分割される。アメリカンフットボールのような、1つの試合期しか持たない競技においては、年間トレーニング計画がマクロサイクルとなるだろう。しかしながら、大学の陸上競技は屋内および屋外の2つのシーズンがあり、年間トレーニング計画は2つのマクロサイクルに分割される。典型的には、競技によってマクロサイクルは異なり、数カ月から1年間にわたる。各マクロサイクルの中には、いくつかのメゾサイクルがあり、それぞれ数週間から数カ月続き、最も典型的なのは2〜6週間である。マクロサイクル内のメゾサイクルの数は、トレーニングの目標と年間トレーニング計画内のマクロサイクルの長さによって決まる。各メゾサイクルは、数日から数週間続くミクロサイクルへと分割され、最も典型的なのが4週間である(22,28)。各ミクロサイクル内にあるトレーニング日は、さらに複数のトレーニングセッションへと分割される。  >トレーニングのピリオダイゼーションは、全般的なトレーニング目標を複数年の、あるいは1年のトレーニング計画で示すことから始め、プログラムがマクロ、メゾ、ミクロサイクルへと展開するにつれてより特異的となる。たとえば、年間トレーニング計画はトレーニング年へと向けた一般的な経路を示すが、それ以外のサイクルは、主要な競争上の目標達成に向けて用いられる手段や方法、様式を示す。 ピリオダイゼーションにおける期  メゾおよびマクロサイクル内のプログラムデザイン変数の全般的な多様性と構造は、マクロサイクルあるいは年間トレーニング計画の含まれる期間に基づいて構成される(22,25)。これらのトレーニング計画の期にわたって、トレーニングの量および強度、コンディショニングプログラムには細心の注意が払われるのが一般的である。しかし、全体的な期分けされたトレーニング計画を構成する際には、競技特異的なテクニックを習得し、仕上げるために費やす時間も考慮すべきである(57)。最終的に、期分けされたトレーニング計画は、オーバートレーニングの可能性を減少させつつパフォーマンス能力を最適化するのを助けるために、系統的にトレーニングの焦点を数週間から数カ月にわたって高ボリューム(多量)で低強度の一般的で非特異的な身体活動から、低ボリューム(少量)でより強度の高い身体活動へと焦点を移行すべきである。  特異的なトレーニング目標に向けて、さまざまな期を通して期分けされたトレーニングプログラムの基礎的な順序立てと、どのようにトレーニングを漸進するかについては、学問的な概念を学ぶうえで順序立てて発展させていくのと非常によく似ている。たとえば、学問において私たちは単純な概念とスキルから始め、より複雑な概念へと発展させる。最終的には、私たちが単純なスキルを積み重ねているのは、より複雑なことに対して完全な基礎を用意しておくためである。究極的に、期分けされたトレーニング計画内の各期は、単純なスキルをより複雑な競技特異的な目標へと発展させる経路としての役割を果たす。  古典的なピリオダイゼーションについての文献において、トレーニングは主に準備期、試合期、移行期に分けられる(24,43)。Stone、O'Bryant、Garhammer(57)はこの古典的モデルを修正し、準備期と試合期の間に「第一移行期」を加えた。この構造に基づき、現代のピリオダイゼーションモデルは、明確に区分されるが互いに関連する4つの期で構成される。すなわち、準備期、第1移行期、試合期、第2移行期である。図21.4に、Stone、O'Bryant、Garhammer(57)が述べた基本的なピリオダイゼーションモデルを示す。このモデルは、トレーニング状態の低い初心者にしばしば適用される。この適用においては、一般的にトレーニングの強度は比較的低いところから始め、徐々に上げていくとともに、トレーニングの量は多い状態から、ゆっくりと減らしていく。これは選手のコンディションに合わせて進める。すべての初心者の選手がこれらのトレーニング変数の大きな変化に耐えられるとは限らないこと、またより小さな変動が求められるかもしれないことに留意することが重要である(58,61,62)。これらの変動は、グラフ上では直線であるかのように示されるが、負荷の変動はミクロおよびメゾサイクルのレベルで起こっているため、量および強度の漸進は実際には非線形であることに注意すべきである(22,24,25,51)。ピリオダイゼーションの古典的モデルに対するこの基本的な誤解により、この種のモデルが誤って線形ピリオダイゼーションモデルと呼ばれる結果につながった(25,51)。  上級レベルの選手は、能力の限界近くでトレーニングする傾向があり、さらなる適応の余地が少ない。したがって、これらの選手は、適切なトレーニング刺激を経験し続けることができるように、トレーニングのより大きな変化とともに、より高ボリュームで(量が多く)高強度であることが必要となる(51)。たとえば、Zatsiorsky and Kraemer(66)は初心者の選手においては刺激となるような負荷であっても、上級の選手にとっては最大に見積もっても維持するための負荷にすぎない(訳注:向上するうえで十分な刺激とはならない)だろうということを示している。この問題に対処するために、準備期の早い段階において、図21.4で示した基本モデルにおけるトレーニング量と比較して全体的により高いトレーニング量で、高ボリューム(多量)から高強度への移行が起こる。 準備期  期分けされたトレーニング計画の概要を示す際、出発点は準備期であることが通常である。この期は試合がないときに存在し、技術的・戦術的・競技特異的な活動は限定される。この期は、しばしばオフシーズンと呼ばれるシーズンに相当する。この期の中心的な目標は、さらに高強度のトレーニングに耐える能力を高めるためのコンディションの基礎的なレベルの向上である。 図21.4に示したモデルに基づき、コンディショニングのための活動は相対的に低強度、高ボリューム(多量)から始める。LSDランニングやLSDスイム、低強度のプライオメトリックス、軽度から中程度の負荷で高回数のレジスタンストレーニングなどが用いられる。伝統的に、準備期は一般的準備期と特異的準備期の2つに分割される。一般的準備期は、この期の最初の部分であり、一般的な身体の基礎を発達させることをしばしば目標とする(3)。この準備期の初期の部分には、高ボリューム(多量)で低強度のトレーニングや、多様なトレーニング手法が含まれ、これらは一般的運動能力およびスキルを高めるために構成されている(36,44)。特異的準備期は、一般的準備期が完了した後に始まり、トレーニングの焦点の移行と関わる。この期では、トレーニングの基礎が確立されたところから、競技特異的なトレーニングの身体活動をより強調することを通して、選手のトレーニングの基礎を広げ、試合期へ向けた準備をする(15)。準備期の中に、トレーニングの強度および量のより細かな違いを表現するために、複数のレジスタンストレーニング段階が設けられることがある。それらは順に、筋肥大・筋力持久力(hypertrophy/strength endurance)段階、基礎筋力段階である。 筋肥大・筋力持久力段階  筋肥大段階は、筋力持久力段階とも呼ばれ、一般的には準備期の初めに置かれる(すなわち一般的準備段階である)(18,27,28)。この段階は、トレーニング強度は低〜中程度であり、全体的な量は多い。この段階の主な目標は、(a)除脂肪体重の増加、(b)持久力(筋と代謝系)の基礎づくりのいずれか、(c)もしくはそれら両方、である。この発達は、続いての段階や期におけるより高強度のトレーニングのための基礎としての役割を果たす(29,30)。筋力・パワー系の選手にとって、主要な目標は筋力持久力を増加させながら筋肥大効果を刺激することだろう。持久力系の選手にとって、主要な目標は顕著に筋肥大させることなく筋力持久力を高めることだろう。競技が何であれ、あるいはトレーニングの対象が何であれ、一般的準備段階において、スポーツコンディショニング活動がその選手の競技に特異的ではないということは、広く受け入れられている。しかし、特異的準備段階へ入って数週間が経過すると、トレーニングの活動はより競技特異的になっていく。たとえば、陸上短距離選手の一般的準備段階は、競技時より遅いスピードでより長い距離のランニング(伝統的な長距離のランニングではない。たとえば、100mのスプリント選手が基礎を確立するために400m走るかもしれない)、両脚でのバウンドやホップのような低強度でのプライオメトリックス、またバイオメカニクス的・構造的にランニングと一致している必要のないレジスタンストレーニング種目(バックスクワットやレッグカールなど)から始める。一般的に、選手は低〜中強度、高ボリューム(多量)でレジスタンストレーニングを行う(表21.2)。  しかしながら、この段階全体を通して、日々のトレーニング強度および作業負荷の変動によって回復が促進されることに注意することが重要である(27)。加えて、段階全体を通じて、また多くは段階の最後、次の段階が始まる前に回復のための週あるいはミクロサイクルが置かれる。  >筋肥大・筋力持久力段階では、非常に低い強度から中程度の強度(1RMの50~75%)で、量の多い(8~20レップを3~6セット)トレーニングを行う。 基礎筋力段階  準備期の後半の特異的準備段階における、基礎筋力段階の主な目的は競技の主となる動作に不可欠な筋群の筋力を増加させることである(11-13)。たとえば、スプリント選手のランニングプログラムでは、中距離のインターバル走や、より複雑で専門化されたプライオメトリックドリルを取り入れる。レジスタンストレーニングプログラムにおいても、競技に対してより特異的になり(たとえば、スクワットやパワークリーン、ワンレッグスクワット)、筋肥大・筋力持久力段階より高負荷、低回数の設定になる(表21.2)。筋肥大・筋力持久力段階と同じように、トレーニング負荷を日々変動させることは、回復を促進する(27,28)。  >基礎筋力段階では、高強度(1RMの80~95%)、中程度から多量(2~6回を2~6セット)のレジスタンストレーニングを行う。 第1移行期  Stoneら(56-58)が述べたように、第1移行期は準備期と試合期をつなげている。Stone、O’Bryant、Garhammerら(57)がストレングストレーニングのピリオダイゼーションに関する影響力の大きな論文で述べたように、古典的には、この期のトレーニングは筋力およびパワーの発達に注目されてきた。この期の中心的な狙いは、筋力の向上と、それをパワー発揮へ変換することへとトレーニングの焦点を移行することである(56,57)。この過程を最大化し、回復を促進するために、ミクロサイクルレベルでトレーニング強度および作業負荷に変化がつけられる(27,28)。加えて、この期の最後の1週間は、試合期が始まる前に回復を達成するために、量および強度の両方を低減することによって特徴づけられる。 筋力・パワー段階  第1移行期における主な段階が筋力・パワー段階である。この段階では、陸上短距離選手のインターバルトレーニングやスピードトレーニングは、試合のペース近くまで強度を高める。すなわち、スピードトレーニングドリル(スレッドの牽引、抵抗を加えたスプリント、上り坂でのスプリントなど)とスプリントを模したプライオメトリックドリル、高負荷で量の少ないパワー強化の爆発的エクササイズを含むレジスタンストレーニングプログラムを実施する。第17章で説明されたように、パワーエクササイズの負荷設定は、%1RM-反復回数にはならないが、この段階では相対的な強度を高くする(表21.2)。とくに、この段階において選択されるエクササイズは、用いられる負荷を決定することができる(39)。たとえば、パワーの向上は、1RMの80%の負荷でハング・パワークリーンを行うことで促進することができ(38)、一方で最大パワー発揮が狙いである場合には、ベンチプレス・スローを50〜70%1RM負荷で行う(39)。筋力およびパワーの両方の発達に対応するために、両方の要素を最適化するうえで重い負荷および軽い負荷の両方のトレーニングを用いる、混合トレーニングアプローチが正当化される(31)。  >筋力・パワー段階では、低〜高強度(エクササイズによって1RMの30~95%)で、低量(2~5回を2~5セット)とする。 試合期  試合期における中心的なトレーニングの目標は、トレーニング強度を増加しつつ量を低減することを介して筋力およびパワーを向上させることによって試合に向けた準備を行うことである。試合への準備性を維持するうえでトレーニングの適切な量と強度が必要となり、またパフォーマンスを最適化するためにトレーニングの量と強度を低減する必要があるため、この過程は繊細なバランスを取る行為となる。この難問を理解するために、前述したフィットネス-疲労パラダイムを考慮するとよい。もしトレーニングの作業負荷(量または強度)を低減させすぎると、疲労は減少するかもしれないが、同時に全般的なフィットネスの低下も起こり、その結果、試合への準備性も低下してしまう。この期の中で、競技特異的なスキルや戦術に費やされる時間も劇的に増加し、レジスタンストレーニングのような身体的コンディショニング活動に費やす時間は、割合的に減少する。たとえばスプリント選手では、スピード、反応時間、スプリントに特異的なプライオメトリックドリルやテクニックのトレーニングにより重点が置かれるようになる。いくつかの競技では試合期は1~2週間続き、ここでピーキングプログラムが行われる(7,23)。ピーキングプログラムは、約1〜2週間のために選手をピークのコンディショニングへと押し上げることを意図している。この期間を延長しようと努力することは、最終的にはフィットネスの減少またはオーバートレーニングの可能性としてパフォーマンス能力の低下を招く結果となる(3,23)。採用した負荷低減の戦略に依存して、ピーキングプログラムは高強度トレーニングから、試合前のテーパリングを通して疲労を低減するためにデザインされた低強度トレーニングへと徐々に移行する結果となる(23)。表21.2に示すように、選手がテーパリングプログラムのどこに位置しているかによって、レジスタンストレーニングは1RMの50%から93%以上という範囲のいずれかとなる。  チームスポーツにおいては、この期はシーズン全体にわたっており、その期間は数カ月になることもあり、維持プログラムを用いることが必要となるかもしれない(3)。この状況では試合期が長く続くため、頻繁な試合スケジュールに伴う疲労を管理しつつ、筋力とパワーを維持するためにトレーニングの強度および量はミクロサイクルを基本に操作すべきである。一般的に、維持プログラムは中〜高強度(例:85〜93%1RM)で低〜中ボリューム(少量から中程度の量)のトレーニングによって特徴づけられる。ミクロサイクルレベルでは、トレーニング負荷はトレーニングや移動、試合スケジュールによって調整される。チームスポーツの選手の試合期においては、選手のパフォーマンス能力と回復を注意深くモニターすることが非常に重要である。  >試合期には、ピーキングと維持が含まれる。ピーキングには、非常に高い強度(1RMの50%から93%以上)で非常に低ボリューム(少量、1~3レップを1~3セット)のトレーニングを1〜2週にわたって実施する。維持には、中程度〜高強度(1RMの85~93%)で中程度の量(約3~6回を2~5セット程度)のトレーニングを実施する。 第2移行期(積極的休養)  試合シーズンと次の年間トレーニング計画との間、あるいはマクロサイクルの準備期との間につながりをつくるために、第2移行期がしばしば用いられる(57)。この期は積極的休養(アクティブレスト)、あるいは回復期と呼ばれることが時々あり、通常は1~4週間続く(3)。もし積極的休養が長い期間にわたる場合、パフォーマンス能力を回復するためにより長い準備期が必要となるのに注意することが重要である(26)。したがって、選手がケガからの回復のために追加の時間を必要としない限り、第2移行期は4週間以上にはしないことが一般的に推奨される。この期の中で、ケガから回復できるよう、また身体的・精神的に休めるように、ピークパフォーマンスの直後または維持期の終わりにおいて積極的(アグレッシブ)なトレーニングは避けるべきである(11-13)。スプリント選手を例にするなら、バレーボールやラケットスポーツ、水泳などをレクリエーション的に楽しんだり、競技に特異的でないレジスタンストレーニングを軽い負荷で少量行う。このほかの積極的休養として、長い段階(3週間)の合間やトレーニング期間の中に1週間の小休止を入れる構成にするというものがある。この無負荷の週の目的は、次の段階や期に向けて身体の準備をすることである。トレーニング強度および量の低減を介したトレーニング負荷の低減を実践することによって、オーバートレーニングの可能性が減少するということを多くのストレングス&コンディショニング専門職は信じている。  >第2移行期(積極的休養)により、新しい年間トレーニング計画またはマクロサイクルが始まる前に選手がケガからのリハビリテーションと、身体的・精神的なリフレッシュができる時間がもたらされる。長い期間にわたってトレーニングを低減すると、選手は競技の「フォーム」(sporting form)を取り戻すうえでより長い準備期が必要となるため、この期は4週間以内とすべきである。 ピリオダイゼーションの期と競技シーズンの対応  実践的には、ピリオダイゼーションは競技および選手のシーズンごとの需要にしたがって疲労を管理し、パフォーマンスを最適化しながらトレーニング反応を方向づけするために、トレーニングを論理的かつ体系的に変化させ、統合させることと関わっている。試合シーズンに基づき、選手から要求される特異的な特質を順序立てて発達させるために、全体的な年間計画あるいはマクロサイクルが構築される。単調さや停滞(staleness)、オーバートレーニングの可能性を避けるために、トレーニングプログラムは重要なトレーニング変数(例:量、強度、頻度、トレーニングの焦点、エクササイズ選択)に変化をつけることによって構成すべきである(28)。古典的には、高校、大学、プロの競技は、ほとんどがオフシーズン、プレシーズン、インシーズン、ポストシーズンという年間スケジュールを有している。これらのシーズンは、期分けされたトレーニングモデルの期(period)と簡単に対応させることができる(図21.5参照)。 オフシーズン  オフシーズンは準備であると考えるべきである。すなわち、オフシーズンはポストシーズンの終わりからプレシーズンが始まるまで続き、最初の大きな試合までの約6週間である(大きく変わることがあるが)。この準備期は一般的および特異的準備期へと分けられ、これらはメゾサイクルへと分割される。これらは続いての試合シーズンのために連結される。たとえば、選手は筋肥大・筋力持久力および基礎筋力に焦点を合わせたいくつかのメゾサイクルのローテーションを完了するかもしれない(図21.5参照)。最終的に、これらの循環的なローテーションは、競技あるいは選手のニーズに基づいて選択される。たとえば、もしアメリカンフットボール選手が筋量を必要とするなら、筋肥大を目標とするメゾサイクルが処方されることになるだろう。 プレシーズン  オフシーズンが完了した後、最初の大きな試合までの間がプレシーズンとなる。第1移行期におけるレジスタンストレーニングの筋力・パワー段階への注力は、このときに着手されることがしばしばである。この期間は、続いての試合期に向けて、選手を準備させるために用いられる。プレシーズンは、その競技に必要となる基礎的な身体能力を高める時期ではないということに注意することが非常に重要である(それは主にオフシーズンにおいて行うべきことである)。プレシーズンは、オフシーズンを活かすために、また選手のパフォーマンス能力を試合期において高めるためにデザインされる。 インシーズン  試合期、つまりインシーズンは、選手権大会を含む年間の全試合が含まれる期間である。ほとんどのスポーツのインシーズンは長期にわたっており、最も重要な試合に向けて複数のメゾサイクルが必要となる。したがって、試合期が長期(12~16週以上)にわたる場合には、プログラムを組む際に独特の課題を生じる。その解決策の1つが、試合期を3または4週間の複数のメゾサイクルに分け、最も重要な試合前に疲労を低減しパフォーマンスの超回復が起こるように最後のメゾサイクルでは負荷を減らすという方法である(28)。これは重要な試合以外においてコンディションが悪いということを意味するのではなく、トレーニングの強度および量をメゾサイクル全体を通して変化させて準備性を調整することができるということである。とくに、トレーニング強度および量は、試合前に疲労を軽減し、準備性をピークにしつつ身体的能力を維持するために増減させられる。中程度の強度で、少量から中程度のトレーニング量の維持プログラムをデザインするという方法もある。 ポストシーズン  最終の試合の後、翌年のオフシーズン(準備期)の前に、ポストシーズンあるいは第2移行期をおき、選手に相対的または積極的な休養を与える。ポストシーズンが長くなるほど、ディトレーニングの可能性が高まり、次のオフシーズンにおいてより長い一般的準備期のニーズが高くなるということを忘れずにいることが重要である(3)。 ピリオダイゼーションの波状モデルと線形モデル  よくも悪くも、現代のピリオダイゼーションについての文献は、ピリオダイゼーションについて言及するときに線形あるいは非線形という言葉を採用している。しかしながら、ピリオダイゼーションの中心的な信念(tenet)として、トレーニングから線形性を取り除くことにあったというのは注意すべきである(25,32,37,43,49,51)。伝統的なレジスタンストレーニングのモデルは、時間の経過に伴ってメゾサイクルの強度を徐々に漸増させることから、しばしば誤って線形と表現されてきた(8,37,51)。Stone、O’Bryant、Garhammerによって記述された伝統的モデル(57,58)や文献(37)を詳細にみると、伝統的なモデルにはミクロサイクルのレベルからメゾサイクル全体を通してトレーニング強度および量-負荷に非線形的な変化が含まれていることが示されている。それにもかかわらず、代替的なモデルが非線形ピリオダイゼーションと呼ばれ、ストレングス&コンディショニング産業に導入されてきている(42,53)。このモデルはおそらく、設定されるコアレジスタンストレーニングエクササイズにおいて、日々の(ミクロサイクル内における)負荷および量(例:反復回数と量-負荷)に大きな変動があるため、波状(undulating)あるいは日単位波状(daily undulating)ピリオダイゼーションモデルと記述したほうがよいだろう。たとえば、このモデルを用いて、週の最初のトレーニング日(例:火曜日)に6RMの負荷で4セット(筋力に集中)、次のトレーニング日(木曜日)には10RMで3セット(筋肥大に集中)、最後のトレーニング日(土曜日)には3RMで5セット行う(パワーに集中)といったように行うかもしれない。この場合、負荷や量(例:反復回数と量-負荷)、トレーニングの焦点のすべてがミクロサイクル内で修正される。これらの修正は、伝統的なピリオダイゼーションモデル(誤って線形ピリオダイゼーションモデルと呼ばれる)で生じるものとは対照的であり、それにしたがって選手は同じ数のセットおよび回数を、トレーニング日を通して負荷を変えて行う。たとえば、85%1RMで6回×4セットをトレーニングの最初の日に行い、2日目には75%1RMで、3日目には65%1RMという、基本的に「重い」から「軽い」(heavy-to-light)トレーニング構造を用いてトレーニングを行う。伝統的モデルは反復回数を変化させないため、強度のみを変化させているように見えるが、このモデルにおける量-負荷の変化は、作業負荷およびトレーニング量が波状となるという結果となり、伝統的モデルは実際には非線形であるということが支持され、また線形であると分類すべきではないということを覚えておくべきである(37)。  筋力の向上には、従来のモデルより波状モデルのほうが効果的であることを示唆する研究もある(16,41,45,47,53)が、2つのモデルに差がない(1,10,52)、あるいは従来のモデルのほうが効果的であることを示唆するエビデンスもある(34,35,50)。波状モデルを支持する者は、従来のモデルでのトレーニング強度の一方向性の増大の継続による神経疲労の蓄積が、波状モデルでは生じないことが強みの1つであることを示唆している(40)。逆に、波状モデルを支持する者は、伝統的モデルにおいて、この種のプログラムが刺激することのできる高いレベルの代謝的疲労が生じるため、高い量-負荷によって末梢の疲労やケガのリスクの増加につながることを示唆している(50)。加えて、フィットネス-疲労パラダイム(図21.3)および刺激-疲労-回復-適応理論(図21.2)の説明から、波状モデルはより量-負荷が高いトレーニングセッションに伴って蓄積する疲労のために、選手の準備性を低下させる可能性があることを示されている。何人かの研究者は、汎適応症候群に基づき、この反応は実際により高いレベルの選手において、オーバートレーニングの可能性を高め(25,60)、その結果、競技に基づくトレーニングを伴うこのモデルを用いることによってケガのリスクが高まるかもしれないということを示唆している。 年間トレーニング計画の例  本章の最後に、年間トレーニング計画(すなわち、1つの試合シーズンを持つ競技のためのマクロサイクル)をデザインする際の方法の1つを示し、4つの競技シーズン全体を4つの表の形でまとめた。このプログラムは第17章の「レジスタンストレーニングのためのプログラムデザイン」のシナリオAで示された女子大学生バスケットボール選手(ポジションはセンター)のプレシーズンにおけるレジスタンストレーニングに基づいている。この選手の状況と最初のテストの結果は第17章に示した。  本章で示される年間計画の例は、第17章のプレシーズンプログラムが終了した時点から開始しており、インシーズン、ポストシーズン、そして翌年のオフシーズンへと続く。この年間トレーニング計画の例では、シナリオAのレジスタンストレーニングの領域を中心としている。他のトレーニング様式(プライオメトリックス、無酸素性コンディショニング、有酸素性持久力)にも簡単に触れるが、この例はバスケットボールのストレングス&コンディショニングのプログラムのあらゆる側面やバリエーションを示すことを意図したものではない。また、この例では2~4週間のメゾサイクルで構成される4つの競技シーズンに分けているが、各シーズンを1つのマクロサイクルとして分けるピリオダイゼーションモデルもある。 プレシーズン  オフシーズンのトレーニング期の終了に続いて、1~2週間の無負荷の週の後、プレシーズンのトレーニングを開始する。この例では、プレシーズンは約3カ月半(8月中旬から最初の試合が始まる11月中旬まで)の期間となる。プレシーズンの目標は、競技特異的なトレーニング強度の増大と、バスケットボールのドリルやスキル練習に用いる時間の増加である。レジスタンストレーニングは、週に3日とし、筋力とパワーの向上に焦点を当てる。その他のトレーニング様式(例:プライオメトリックスや無酸素性コンディショニング)、とくにバスケットボールのトレーニングに直接的に貢献するものは、高い優先度となる。第17章ではミクロサイクルの進行を示していないが、プレシーズンのレジスタンストレーニングについては詳細に説明している。そのため、プレシーズンのプログラムの例については第17章の表、「すべてのプログラムデザイン変数の適用」を参照していただきたい。本章で示したピリオダイゼーションのコンセプトに使用した方法と同じものが、残りのプレシーズンにおいても用いることができるだろう。 インシーズン  プレシーズン終了後、無負荷の週を1週間とっているため、試合期のトレーニングを開始する準備が整う。インシーズンは通常11月から4月までの約20週間にわたって続く(4週間のトーナメント期間を含む。これはさらに延びる場合もある)。インシーズンの目標は、筋力やパワー、柔軟性、無酸素性コンディショニングを維持し、可能であれば向上させることである。試合や、スキルおよび戦術練習、移動によって時間的制約を受けるため、コート外でのトレーニング量は減少する。各週に複数の試合があるため、レジスタンストレーニングは週1~3回、各30分間に制限される場合もあり、相対的な強度で量-負荷を変動させる波状形式で構成する。パワー系のコアエクササイズ、バスケットボールに特異的な非パワー系のコアエクササイズを中心として、バランス維持の観点から補助エクササイズを付け加える。本章の章末近くにあるインシーズンプログラムの例を参照していただきたい。試合数に応じて、プライオメトリックスのセッションはレジスタンストレーニングと交互に週に1回か2回実施すべきである。  レジスタンストレーニングを実施しない日に、週に1回か2回、バスケットボールの練習中に15~20分間のさまざまなショートスプリントのインターバルトレーニングを実施することは可能である。スピードやアジリティなどのランニングコンディショニングは練習時間に組み込み、柔軟性トレーニングは練習や試合のウォームアップやクールダウンの一部として行うことができる。試合のスケジュールに応じて、レジスタンストレーニング、プライオメトリックス、スプリントのインターバルトレーニングの各セッション間には2~3日空けるようにすべきである。この期間は、これ以前のトレーニング期と同様に、時間の大部分はスキルと戦略の向上へ、残りをコンディショニングへと割り当てる。  選手が前のメゾサイクルから良好なコンディションで、チームがカンファレンストーナメントで勝ち続けている場合は、そのコンディションを維持するだけでなく、再びピークに高める必要がある。チームがカンファレンストーナメントの後に開催されるトーナメントへの出場権を得たのであれば、いったんメゾサイクル2に戻り、再度メゾサイクル3へと進む。トーナメントのゲームスケジュールによって週に1回しかレジスタンストレーニングのセッションが実施できない場合は、その1回で(時間が許せば)その週に行うすべてのパワーおよびコアエクササイズを実施し、補助エクササイズは省略する。週間トーナメントスケジュールに特化した2つの例を本章の最後に示した。 ポストシーズン(積極的休養期)  試合期に続いて、正式な、あるいは組織的なワークアウトを行わない積極的休養の(第2)移行期がある。この例では、その移行期が1カ月続く(4月4日から5月1日まで)。この期間の目標は、長期にわたったインシーズンからの身体面および精神面の回復である。水泳、ジョギング、サーキットウェイトトレーニング、バレーボール、ラケットボール、遊びとして行うバスケットボールといったレクリエーション的なゲームやフィットネス活動を行うが、すべての活動は、低強度かつ少量(低ボリューム)とする。 オフシーズン  積極的休養期を過ごした選手は、休養が取れているはずであり、またオフシーズン(準備期)のトレーニングを開始する準備ができているはずである。この例では、準備期は5月初旬から8月初旬までの14週間にわたって続く。この期間の目標は、その後の段階や期におけるさらに高強度のトレーニングに耐える能力を高めるためのコンディションの基礎的なレベルの確立である。最初の週にテストを実施し、最初のメゾサイクルで実施するエクササイズのトレーニング負荷を決定する。その後のメゾサイクルで加わるエクササイズのトレーニング負荷は、類似したエクササイズで使用している負荷から推定するか、RMの測定により決定する。たとえば、ストレングス&コンディショニング専門職は、ハングクリーンのトレーニング負荷をパワークリーンにおいて測定された最大値から合理的に推定することができ、また実際のRMを測定することもできる。バスケットボールに関係するこれ以外のモニタリングテストとして、肩および股関節の柔軟性テスト、12分間走、300ヤード(274m)シャトルラン、ラインドリル、Tテスト、垂直跳び、皮下脂肪厚測定がある(これらのテストのプロトコルについては第13章を参照)。  オフシーズンには、レジスタンストレーニングの優先度が高まる。スプリットルーティンで週に4回、あるいはそれ以上行う選手もいるだろう。このバスケットボール選手の例では、オフシーズンのトレーニングは、週3回、全身のトレーニングから開始し、すぐに上半身と下半身に分割したスプリットプログラムで週4回の形式に進み、トレーニング強度は疲労を管理できるようにミクロサイクル全体にわたって変化させる。このように、負荷の漸増に伴いトレーニング量が減少する形でプログラムを進行する。これ以外のトレーニングには、身体組成や心臓血管系のフィットネスの維持あるいは改善のために有酸素性持久力のエクササイズが含まれる。これらのコンディショニングワークアウトは、レジスタンストレーニングを行わない日に計画し、柔軟性のトレーニングは、各トレーニングセッションのウォームアップやクールダウンの一部として重点的に行う。 年間トレーニング計画の例のレビュー  どのようなピリオダイゼーションモデルであっても効果的に機能するためには、競技コーチとストレングス&コンディショニング専門職が共同でプログラムを計画し、目標や戦略を共有する必要がある。このことは、共に働く中で、よりよくトレーニングストレスを管理し、疲労と回復を調整するために選手が関わるすべてのトレーニング要因を統合することを可能とするうえで、非常に重要な問題である。関係するすべての専門家の協力がなければ、最適なパフォーマンスを完全に達成することは不可能である。  ここでは、例となる選手のためのトレーニングを構成するために用いられたピリオダイゼーションモデルを1つのみ例示した。選手やスポーツ競技によって、ここで示した構成とは多かれ少なかれ異なるものが必要となるだろう。多数のピリオダイゼーションモデルによって選手および競技の多様なニーズに合わせて適応させることができるということを覚えておくのは重要である。 まとめ  ピリオダイゼーションは、最も重要な試合に向けてピークのコンディション(準備性)を促進するために、論理的かつ体系的に組み立てられた選手のトレーニングを通した過程である。年間のトレーニング計画(トレーニング年)は、準備期、試合期、移行期を含むマクロサイクルに分けられる。各期は、それぞれに発達させる目標を持つメゾサイクルへと分割される。すなわち、筋肥大・筋力持久力、基礎筋力、筋力・パワーである。複数のメゾサイクル間、また回復を促進する負荷のない期とメゾサイクル間を連結するために、移行期が用いられる。マクロサイクル、メゾサイクル、個々のマクロサイクルの構造全体は、それぞれの競技の競技シーズンと需要によって決定づけられる。 重要語句  積極的休養(active rest)  年間トレーニング計画(annual training plan)  基礎筋力段階(basic strength phase)  試合シーズン(competitive period)※確認。期 or シーズン or 段階  日単位波状ピリオダイゼーション(daily undulating periodization)  第1移行期(first transition period)  フィットネス-疲労パラダイム(fitness-fatigue paradigm)  汎適応症候群(GAS:General Adaptation Syndrome)  一般的準備期(general preparatory phase)  筋肥大・筋力持久力段階(hypertrophy/strength endurance phase)  線形ピリオダイゼーション(linear periodization)  マクロサイクル(macrocycle)  維持(maintenance)  メゾサイクル(mesocycle)  ミクロサイクル(microcycle)  非線形ピリオダイゼーション(nonlinear periodization)  ピーキング(peaking)  ピリオダイゼーション(期分け)(periodization)  準備期(preparatory period)  回復(recovery)  回復(restoration)  第2移行期(second transition period)  特異的準備段階(specific preparatory phase)  刺激-疲労-回復-適応理論(stimulus-fatigue-recovery-adaptation theory)  筋力・パワー段階(strength/power phase)  超回復(supercompensation)  伝統的なピリオダイゼーション(traditional periodization) 例題  1. 汎適応症候群において、高負荷のトレーニングに対する身体の生理学的適応が生じるのはどの段階か?  a. 警告段階  b. 抵抗段階  c. 疲憊(ひはい)段階  d. 回復段階  2. ピリオダイゼーションの期にシーズンを関連させた場合に、トレーニングの準備期に対応するシーズンはどれか?  a. インシーズン  b. プレシーズン  c. オフシーズン  d. ポストシーズン  3. 最も多い量で競技特異的な身体活動が実施されるのはどの時期か?  a. 準備期  b. 第1移行期  c. 試合期  d. 第2移行期  4. 中くらいのサイズのトレーニングサイクルで、2〜6週間のものを何と呼ぶか。  I. トレーニングのブロック  II. マクロサイクル  III. ミクロサイクル  IV. メゾサイクル  a. II、III  b. Ⅰ、Ⅳ  c. I、II、IV  d. III、IV  5. 準備期の中で、多様なワークアウトが用いられるのは通常どの段階か?  Ⅰ. 筋肥大期  Ⅱ. 心臓血管系段階  Ⅲ. 基礎筋力段階  Ⅳ. 超回復段階  a. Ⅰ、Ⅲ  b. Ⅱ、Ⅳ  c. Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ  d. II、III、IV