第19章 スピードおよびアジリティトレーニングのためのプログラムデザインとテクニック Brad H. DeWeese, EdD, and Sophia Nimphius, PhD  著者らは、本章の執筆にあたって多大な貢献をいただいたSteven S. Pliskに感謝の意を表したい。また、Matt L. Sams; Chris Bellon, MA, CSCS; Satoshi Mizuguchi, PhD; N. Travis Triplett, PhD, CSCS*D, FNSCA; Jared M. Porter, PhD, Adam Benz, MS, CSCS; Tania Spiteri, MSにも感謝申し上げる。  本章を終えると  ・スプリントや方向転換、アジリティのパフォーマンスを支えるバイオメカニクス的な構造について述べることができる。  ・移動様式やテクニックの指導にしっかりした動作原理を適用することができる。  ・特異的な動作の課題を行うのに必要な能力やスキルを分析することができる。  ・スプリントや方向転換、アジリティ能力を効果的にモニターすることができる。  ・スピードや方向転換、アジリティを向上させるうえでしっかりした手段および方法を適用することができる。  ・競技パフォーマンス向上を最大限に引き出すためのトレーニングプログラムをデザインし、実施することができる。  本章では、スピードや方向転換、アジリティ能力を向上させることについて取り上げる。スピードという用語は、選手が身体的パフォーマンスの1つまたはすべての側面を示す場合に用いられることがしばしばあるが、選手育成においてはバイオメカニクス的な要求が異なる結果として、下支えするさまざまな身体的能力およびスキルが必要となるという理解は重要である。 身体パフォーマンスに関するこれら3つの重要な側面は、以下のように定義することができる。  ・スピード──動作速度を高めるために必要なスキルと能力  ・方向転換──爆発的に動作の方向や速度、様式を変化させるために必要なスキルと能力  ・アジリティ──刺激に反応して動作の方向や速度、様式を急激に変化させるために必要な技術と能力  試合をより速く走る能力こそ、ほとんどの競技の努力の証である。さらに、身体活動中に素早く方向転換する能力によって、相手選手のスピードの効力をそぎ、プレーのフィールドにおける身体的・戦術的な優位性をもたらすことができる。これらのシナリオはすべて選手の「スピード」が関わっているようであるが、この認識された「スピード」は、1つの質、すなわち列挙した3つの量の組み合わせとなるだろう。スポーツにおいては、スピードの速い人間の移動手段は直線的あるいは多方向に分類される。直線で速いスピードを生み出すことは一般的にスプリントと呼ばれ、多くのトラック&フィールド種目や屋外のランニング種目の試合に基づく文脈(in game-based contexts)においては基礎となる要求である。直線的なスピードはチーム競技において重要であるが、プレーは主に多方向である。結果として、これらの選手の成功は、速く効果的な方向転換を通して常に変化するゲームシナリオ(試合の筋書き)へ反応することに部分的に依存する一方で、スピードは加速し最大速度に到達する能力を必要とする。  ほとんどのスポーツの本質により、選手が方向転換を行ううえで予測をしているというシナリオが存在し、その身体活動の実施は身体的能力によってのみ制限される(例:ルート、プレー、予測パターン)。減速および再加速をしている中で方向転換を行い、ときには異なる移動様式も用いる身体的能力は方向転換能力であり、一方でアジリティは方向転換能力に知覚認知能力を組み合わせることを必要とする。このことが、スピードや方向転換、アジリティの間の類似点と相違点を際立たせている。たとえば、加速は方向転換およびアジリティ能力の一部であるが、減速能力といった追加的な側面や、動作様式の違いにより、スピードのためのトレーニングと方向転換およびアジリティのためのトレーニングとの間に違いが生じる。方向転換のための身体能力は、アジリティの構成要因の1つとなるかもしれないが、知覚認知の要素がアジリティの身体的な需要に影響を及ぼす。したがって、本章を読み進める際に、これらの特質には重なり合う部分があるものの、それぞれの身体的パフォーマンスを改善するには異なる身体的・技術的・知覚認知的な発展が求められるということを理解する必要がある。  競技選手がスプリントあるいは方向転換を行っているとき、そのパフォーマンスは身体的能力と技術的な習熟によって得られる(a function of)。有酸素的な競技においては、バイオメカニクス的・代謝的な効率がパフォーマンスを下支えしており、効率的に力を適用することにより、スピードや方向転換、アジリティは限定される。単純にいうと、これらの爆発的な動作は選手の筋力と、活動の制約の範囲内でその筋力を用いることの組み合わせの産物である。筋力はしばしば選手の力を生み出す能力と関連しているが、高いレベルの最大筋力がスポーツやスプリント、方向転換、アジリティにおいて求められる特性である一方で、アジリティ種目には最大筋力を生み出し発現することを妨げる期間があるということを理解するのが重要である。  スプリントの中で、力を適用することによって、競技選手は加速し、高速度を得ることができ、その速度を維持しようとする。加速に関連する力の適用と、スプリントにおける速度の獲得に加えて、方向転換能力は、異なる方向における減速と再加速のための効果的に力を適用することが必要となる。さらに、アジリティのパフォーマンスは方向転換だけでなく、(ディフェンダーやボールといった)刺激に反応して方向転換するという働きもあると考えられる(4)<選手の能力の働きの1つである>。この理由のため、ストレングス&コンディショニング専門職は、トラックとフィールドの両方でスピードや方向転換、アジリティを促進するのを助ける身体的特性の発達に関わるこれらのトレーニングを選択することを意識すべきである。  >スピードは、加速し最大速度へ到達する能力を必要とし、アジリティパフォーマンスは知覚認知能力と減速後に再加速する能力の組み合わせを必要とする。 スピードとアジリティのメカニクス  動作のテクニックを実施するために、力を適用しなければならない──力は質量と加速度の積である。多くの競技の身体活動中において、力を生み出すための時間は限られており、力を生み出すために利用できる時間に対して相対的な力を表すうえで2つの変数がある。  ・RDF(力の立ち上がり速度)──最小限の時間で最大の力を生み出すことであり、爆発的な筋力の指標として使われるのが典型的である(3)。  ・力積──生み出された力と、生み出すのに要した時間の積であり、力-時間曲線下面積として表される。力積-モーメント関係により、力積は物体のモーメントの変化の程度を決定づける。 スプリント、方向転換、アジリティの物理学  力とは、2つの物理学的な物体の相互作用を表す。力はベクトル量、つまり大きさと方向を持つ量である。伝統的に、力は物体がお互いに押す、または引くことにより、2つの物体が同じ空間を占めることが避けられるというように表現されてきた。この質量の動きが、物体の速度を変化させ、加速を引き起こす。  ストレングス&コンディショニング専門職の間では、速度とスピードという言葉は交換可能なように用いられることがしばしばある。スプリントとアジリティのパフォーマンスについて適切に議論するうえで、これらの用語は区別する必要がある。スピードはスカラー量であり、その物体がどのくらい速く動くかのみを表す。スピードはどのくらいの距離を進むかの割合(レート)である。力と同じように、速度はベクトル量である。速度は、その物体がどのくらい速く動くかと、その動く方向の両方を表す。簡潔に表現すると、速度は方向を伴うスピードである。  加速とは、その物体の速度がある時間の中で変化する割合のことである。いったん力が物理的な物体に働くと、その質量は方向を変え、占めていた空間を離れる。物体の加速は、速度を変化させる外力が働き続ける限り続く。実践的な状況においては、高速度から低速度へと変化することを表す際に、減速を負の加速へと置き換えられる。 RFD(力の立ち上がり速度)  スポーツの文脈においては、力を素早く生み出す能力は最大の力を生み出すよりも望ましい特質であるということはほぼ間違いないだろう(89)。高いレベルで最大の力を生み出す能力は、ジャンプ高その他の競技的な尺度においてパフォーマンスが改善することが示されているが、ほとんどの試合でのシナリオは、時間的な枠組み(タイムフレーム)の中で最大の力を生み出すことができるようなことは起こらない(19)(訳注:実際の試合場面では、最大の力を出すような時間的な余裕はほとんどないだろう)。とくに、最大の収縮力を生み出すのには少なくとも300msという時間がかかり、一方で多くのスポーツ活動において用いられる時間は0〜200msである(図19.1を参照)(1)。この理由のため、スポーツの状況においては、動作のタイミングに制限があり、爆発的能力の測定にはRFDがより有用である(5)。RFDは力の変化を時間の変化で除したものとして表される(89)。  ある質量を加速させる能力は、外力が適用された結果として起こる速度の変化に依存する。したがって、実務的な見地から、より高い加速能力に到達したい選手はより大きなレート(時間に対する速さ)で力を適用させるべきである。 力積  物体の位置を変化させるとき、速度の変化を生み出すために力が加えられる必要がある。力を生み出すことを通じてスピードを高めようとする選手が、一瞬で力を加えるということは起こらない。実際に、力が加えられるのは、スプリントにおける立脚局面(図19.2)あるいは方向転換におけるプラント局面(plant phase)である。立脚局面あるいはプラント局面の時間の長さを接地時間と呼ぶ。地面に対して力が加えられた時間と、加えられた力の大きさを乗じたもの(積)を力積と呼び、グラフにすると力-時間曲線下面積として表される。力積の変化により、モーメントの変化が引き起こされ、したがってこれが加速あるいは減速の能力となる。  図19.2は、最大速度局面と比較して加速局面(図19.7)における垂直および水平の力の大きさの違いを示しており(図19.8)、これは最大伸展を通して力を生み出すために用いられる2つの姿勢の違いを反映している。さらに、これらの2つの概略図は、力積の概念について示しており(力-時間曲線下面積を示す)、制動局面においては負の水平力が、また推進局面においては正の水平力が示されている。これら2つの局面の力積は、垂直の点線で示されている。最大速度局面中、非対称的に力が生み出されており、RFDが非常に高いことで、加速局面と比較して接地時間がより短いという結果となる。  モーメントは、物体の質量と動きの速度の間の関係として定義される。スプリントの間、選手の身体の質量は一定である。したがって、同じタイムフレームでより大きな力積に到達するには、より大きな力を生み出せばよい。この力積の増加により、モーメントの増加または減少が引き起こされ、これは方向転換の前に選手が加速あるいは再加速、減速しようとするかによって決まる。言い換えると、力積の変化はモーメントの変化であり、物体の動きに変化を引き起こす。  人の移動において、個々のステップ(一歩ずつ)という時間の中で生み出される力の大きさは、それがうまくいくかどうかにとって重要である。これらの力の変化により、選手のモーメントの増加または減少が可能となる。この理由により、トレーニングはRFDに加えて力積(力-時間曲線下面積)に注目すべきである。  ここでは、パワーについては力と速度から導き出されるものであるため、議論しなかった。パワーは、最大の爆発的パフォーマンスを本質的には示す力学的構成概念ではないと考えられる(32)。実際のところ、パワーの値は専門職に対してパフォーマンスへの示唆を完全に有用な方法で与えるものではない。なぜなら、パワーの値は力によって得られたのか、あるいは速度によって得られたのかが不明確だからである。力やRFD、力積が直接的な尺度であることを理解していれば、より複雑な導き出された値は、さらなる洞察を得るうえで必ずしも必要ではなくなる。 スピードのための現場への活用  自らの身体をトラックあるいはフィールドに対して移動(変位)させるために、競技選手らは重力の作用に打ち勝って力を効率的に生み出し、速度に正の変化をつくり出さなければならない。短距離のスプリントにおいて、到達しうる最高速度まで加速するには努力を必要とし、それは生理学的要因によって大きく決定される。これらの力あるいは努力は、最大随意収縮に必要な時間より短いことがしばしばである時間的制約の中で素早く生み出される。この理由のため、スプリントで成功するためには、RFDがより重要な要因となるかもしれない。さらに、スプリントの成功は短時間で力を生み出せるかどうかに大きく依存するため、力積は下支えする重要な要因となる。 方向転換とアジリティのための現場への活用  ある時間内に制動力を生み出す力は制動力積と呼ばれ、加速においてのみ要求されるのではないため、方向転換あるいはアジリティを行う際にも考慮されるべきである。効果的・効率的にモーメントを変えるために必要となる力積の大きさは、方向転換に必要な物理的要求を直接的に反映したものとなる。たとえば、必要となる方向転換の角度が大きいほど、あるいは方向転換する際の速度が増加するほど、モーメントを変えるのに必要となる力積は大きくなる。したがって、物理学的にそういった活動を行う需要が高くなる。さらに、アジリティの知覚認知の側面によって時間的制約が課せられ、刺激に反応してうまく方向を転換するために必要となる力(および力積)を生み出すことを可能とする時間が制限されることによって、物理学的需要は影響を受ける。 スピードのための神経生理学的な基礎  スプリントやアジリティ、方向転換はすべてスポーツの状況における力の生産の動的な表れ(displays)である。ストレングス&コンディショニング専門職は、これら競争に有利な特質を高めるのを手助けするよう依頼されることがしばしばあるため、これら力の尺度が動作中にどのように生み出されるかについての概要を知っておく必要がある(warranted)。 神経系  中枢神経系(CNS)の活動および筋との相互作用は筋収縮のレート(時間あたりの速度)と筋力に影響を及ぼすため、神経筋の機能は、スプリントのパフォーマンスにおいて重要である。ストレングストレーニングやプライオメトリック、スプリントトレーニングの組み合わせにより、神経筋系に適応が起こり、これがスプリントパフォーマンスに寄与するかもしれないということが研究により示されている。ストレングストレーニングは、神経の駆動(drive)や、神経筋から目標となる筋へと送られるインパルスのレートおよび強度を促進する。神経の駆動が高まることは、活動電位が起こるレートの増加を示し、生み出される筋の力とレートの増加と関連する。同様に、プライオメトリックトレーニングにより、高閾値運動神経の興奮性の増加が示されている。興奮性の増加は、最終的に神経駆動を促進する。まとめると、神経駆動の増加はRFDおよび力積の増加に寄与するかもしれない。 ストレッチ-ショートニングサイクル  多くの機能的動作は、準備となる弾むような反動動作で始まる。この反動動作には、ストレッチ-ショートニング〔伸張-短縮〕サイクル(SSC)と呼ばれる、伸張性-短縮性活動が連続する現象が関わる。ストレッチ-ショートニングサイクルでは、筋-腱複合体が素早く強制的に伸ばされる伸張負荷がかかり、それに反応して弾性的に筋が素早く短縮する。実践的に表現すると、伸張性筋活動から短縮性筋活動へと素早い転換が起こる動作においてSSCが起こる。したがって、SSCの動作は、とくにランニングやジャンプなど、速度の爆発的な変化を含むスポーツにおいてとくに広くみられる。それらのパフォーマンスは、一流選手では最大筋力に依存しない別個の能力である(35,45,46,71,72,80,87,99)。  ストレッチ-ショートニングサイクルは、(1)筋腱複合体固有の振る舞い、(2)運動神経系への力と長さの反射フィードバックの2つを活用している(3,4,9,14,25)。ストレッチ-ショートニングサイクルは、短期的には弾性エネルギーの回復により力学的有効性や力積を急激に増大させ、長期的には、筋のスティフネスを高めて神経筋活動を強める働きを持つ(35,45,46,71,72)。ストレッチ-ショートニングサイクルの働きの向上を目的としたトレーニングには、以下の2点が求められる(36,71,72,80,87)。  ・キネティックチェーンを通じて力を伝達し、弾性-反射メカニズムを利用する技術を伴う多関節動作を実施する。  ・疲労を管理し、動作の質とテクニックに重点を置くために、短時間に抑えるか、休息時間を頻繁にはさむ。  こうした目的は漸進的なプライオメトリックトレーニングと高重量レジスタンストレーニングの組み合わせによって達成できる。この戦略の興味深い例が、コンプレックス(複合)トレーニングであり、これは同一セッション内でストレッチ-ショートニングサイクル課題と高負荷レジスタンストレーニングを交互に実施して運動効果を高めるというものである。この方法の基礎となっているのは、活動後増強と呼ばれている短時間の後作用現象である(37,66,69)。このトレーニング手法は、上級競技者のパフォーマンス強化手段として広く行われるようになっているが、初心者や若年層の選手には適さない可能性もある。 ばね質量モデル  ストレングスおよびスピードトレーニングにさらされることで、スプリントで用いられる筋(musculature)の事前活性化が高まることと結びつくかもしれない(43,46)。事前の伸張が始まることが、関連する筋紡錘の感度の上昇と関係するかもしれない。筋紡錘からのフィードバックに必要な時間が改善することにより、筋のスティフネスおよびコンプライアンス(粘弾性および伸展性)が大きくなるという結果となる(44,48,68)。この生理学的な条件がSSCに対する支持をもたらし、ばね質量モデル(SSM:spring-mass model)の下支えとなる。SMM(図19.3)は数学的モデルであり、身体の質量が、生み出されたエネルギーの余効(aftereffect)を受け、筋構造内部の全体的なバネ様の伸び縮みを通して運ばれ、変位するという人間の移動の一種としてのスプリントをモデル化し図にした(10,21,27,29)。ランニング周期を一巡する間、片方のバネが圧縮し、選手の身体を前方へと推進する。同時に、もう片方のバネは接地に向けた準備として前方へとスイングする。  直立でのスプリント中、バネの圧縮は足部の接地で始まり、その結果、水平方向の制動力となる。この急激で短い減速が、続いてのステップのための準備において脚の前方へのスイングを手助けする。質量中心が前足部の上へと移動したとき、スプリント選手はミッドスタンス(立脚中期)である。SMM内では、バネは最下点まで圧縮され、これと一致して質量中心はミッドスタンスで低くなる。最終的に、このモデルは圧縮されたバネの伸展を通したエネルギーが戻るときのセグメントのプッシュオフを描く。この合わさったエネルギーと力の戻りにより、スプリント選手は前方へと投射される。  SMMは、直立した高スピードの走動作に注目するための概念的なフレームワークを提供するが、最近の研究では一流スプリント選手の立脚局面を記述する際に、このモデルでは限界があることが示唆されている。図19.2に示すように、一流スプリント選手の最大速度局面における垂直力の多くは、接地の前半で生み出されるため、古典的なSMMから外れる傾向にある。対照的に、多くのチームスポーツやフィールドを主とするスポーツのようなほとんどの非一流スプリント選手は、図19.3で示すようにSMMで記述される垂直力がより対称的な立脚局面を示す(17)。SMMはそのようなものとして、SSCや筋スティフネス、スプリントの間の関係を記述する手段として用いられるべきである。実際に、ある走速度においてストライド頻度が増加するにつれて、脚のバネの特質の中で最も重要なものは、筋スティフネスの増加である(29)。  >スプリントは高スピードで動くことが求められるため、ストレングス&コンディショニング専門職はSSCに関連した股関節および膝関節領域の筋に過負荷がかかり、神経駆動が増加することが示されているエクササイズの処方を強調すべきである。 方向転換とアジリティの向上における神経生理学的考慮事項  これまでに述べたスピードパフォーマンスの神経生理学的な側面に加え、方向転換およびアジリティに関して考慮する要因がほかにもある。図19.4に示すプラント局面(plant phase)の間、接地時間の長さはアジリティ(0.23〜0.25秒)(7)、あるいは方向転換(0.44〜0.722秒)(8, 39, 54)は、スプリントの加速局面(0.17〜0.2秒)(4)および最大速度局面(0.09〜0.11秒)(92,93)のどちらの接地時間よりも長い。これを考えると、ほとんどの方向転換にはより長いSSCの活動を必要とする。  アジリティのパフォーマンスにおいて、制動は重要な部分であるため(83,84)、高速度で力の大きな伸張性筋活動に関する神経筋の発達が、以下の2つの理由により考慮される。第1に、短縮性筋活動において求められる適応すなわち運動単位の動員経路は、伸張性筋活動において求められるものとは異なるためである(28)。第2に、伸張性筋活動に対する適応は、その伸張性負荷に対して特異的であるように見えるためである(62)。加えて、効果的なアジリティのパフォーマンスのために選手をトレーニングすることは、方向転換のための神経生理学的要求以上の知覚認知の需要についての知識が必要となる。視覚的探査や予測、意思決定、反応時間の領域における能力に関連した、求められる知覚認知だけでなく、戦術的状況(攻守)によって求められる脳の情報処理過程は変化する(82,85)。  SSCおよび伸張性筋活動トレーニングを含む神経生理学的要因に関する方向転換やアジリティにおいて求められるさまざまな需要について、またSSMにおける時間の長さあるいは方向転換の方法の需要に関する示唆についての理解が進むにしたがって、アジリティを向上させるために必要となるトレーニングがより明確になってきている。さらに、アジリティパフォーマンスにおける神経生理学的な要求は、身体的要求から戦術的状況に特異的な知覚認知的要求へと広がる。 ランニングスピード  スプリントは、フライト局面とサポート局面のストライドとして知られる一連の組み合わせであり、身体をトラックに対して最大加速、ないしは最大速度(もしくはその両要素)で移動しようとして組み立てられるもので、通常、短距離かつ短時間である。スプリントは、素早く、ペースが一定でなく、15秒未満の最大努力のランニングであると表現されている(67)。しかしながら、古典的なスプリントスピードの定義では、ストライド長とストライド頻度の間の関係について述べられてきた(53)。  この理解に基づくと、ストライド長の増加またはストライド頻度の増加によってスプリントスピードを高くすることができる(図19.5)。これらのパフォーマンス変数の変化は論理的ではあるが、ストライド長およびストライド頻度の最大化を下支えする構成要素は、素早く力を生み出すことと関連している。  ・一流スプリント選手と初心者の違いは、単一の要素で解明することができる。最近のスプリントに関する研究(13,52,93,94)では、立脚局面における地面に対して適用された垂直力の大きさが、スピード向上において最も重要な要素であることが示唆されている。加えて、これらのより大きな力は、できる限り短い時間で地面へと適用されなければならない(RFD)。  ・質量を変位させるうえで、力を加える(適用する)ことが必要となる。スプリントにおいては、ストライド長は質量の変位を表す。一流の男性スプリント選手は、ストライド長が2.70mに達するが、初心者のスプリント選手におけるストライド長は最大速度において2.56mである(図19.6a)(52)。  ・地面との接触は力を生み出すうえで、また続いての速度の変化を継続するうえで必要であるため、ストライド率を高くすることは、理論的には力を生み出すのに用いる時間を最大化するだろう。一流の男性スプリント選手は、約4.63歩/秒というストライド率を示すが、初心者では4.43歩/秒未満である(図19.6b)(52)。言い換えると、一流スプリント選手は自身の質量を変位させようと努力する際、必要となる接地時間がより少ない。したがって、これらのより速いスプリント選手は、より頻度の高いストライド率によって、より長い時間にわたって空中にいるのである。興味深いことに、一流スプリント選手はスイング脚の位置を戻す際の時間は、より遅い選手と同様である(52,94)。  続いての接地を段階分けするために必要な時間(the time required for staging the subsequent ground contact)は、一流スプリント選手と初心者で同様であるが、一流スプリント選手は垂直力を適切な方向へ向けることで、トラックに対して自分をより遠くへ推進できる。Mann(52)は、リカバリー脚の最大屈曲時に膝の高さを最適化するうえで、これらの垂直力はトラックに対してよりよい方向を向いていることを示唆している。このより高い膝の位置により、力を生み出し、続いての地面のクリアランスのための時間がもたらされる。この技術的に有利な点は、なぜ一流選手が立脚局面の前半において力のほとんどを生み出す傾向にあるのかについて、さらなるエビデンスとなるかもしれない。  加えて、より速いスプリント選手は、短い立脚局面において大きな力を継続的に加えることを通して、より高速度に到達することができ、このことにより、高いレートで長いストライドという結果につながる。一流という状況において、男性スプリント選手では12.55m/s近くに達する結果となるが、初心者では12.25m/sに限られる。生み出すことのできる力は間違いなく制限因子であるが、技術的効率性や、トレーニングのデザインが適切かどうかも、スプリントのスピードの限界を決定づける。  >スプリントのスピードは、ストライド長とストライド率によって決定される。より成功を収めるスプリント選手は、地面に対して適切な方向へ力を加えている結果、ストライド長がより長く、またより頻度の高いストライド率を示す。これらの知見は、RFDや適切なバイオメカニクスがスプリントのパフォーマンスに影響を及ぼす主な制限要因のうちの2つであることを示唆している。 スプリントテクニックのガイドライン  直線でのスプリントでは、スタート、加速(図19.7)、トップスピード (図19.8)といった一連の要素によって構成される。これらの局面は技術的に区分されるが、一連の立脚局面およびフライト局面を通して最大スピードで意図的に下肢を動かすことが求められる。立脚局面は、さらに2つの期、すなわち伸張性制動期と短縮性推進期に分けることができる。対照的に、フライト局面はスイングしている脚をリカバリー(回復)させ、接地の準備をさせるというセグメントで構成される。  図19.9は、図19.7および19.8に示したスプリントテクニックのチェックリストである。これらの推奨は直線でのスプリントに基づいており、指導と動作の評価の両方において有用である。図19.10は、最高速度のスプリントで起こる基本の動作を記述したものである。 技術的な誤りとコーチング  スプリントで起こりやすい多くの誤りやあり得る原因、修正のコーチングについて図19.1で取り上げている。これらの誤りは、不適切なコーチングのキュー(合図、指示)、不十分な可動性、外的干渉によって生じる正常な歩容(gait)の乱れによってうまく力を加えることができない結果であることがかなり頻繁にある。たとえば、選手はコーチングドリルの結果(スピードを得るためにトラック沿いに置かれたより長いマークに合わせて脚を伸ばそうとする)、あるいは急激にストライド長を長くすることによりレースで相手選手に「追いつく」ことが可能になるという信念により、ストライドを大きくしすぎる可能性がある。どのような理由であったとしても、コーチの狙いは選手の脚の運び(gait)のサイクルを最適化するような、地面への適切な力の伝達を通して選手のスピードを促進することである。 トレーニングの目標  スプリントの大きな目標は、地面へ適切に力を加えることを通して、最適なストライド長およびストライド頻度に到達することである。大きな力の伝達が、接地時間としても知られる短い立脚局面の中で起こらなくてはならない。加速局面の間、股関節を地面の上のスピードがこれ以上増加しないポイントへと挙上するのを推進力が手助けする。スプリントのこの部分は、最大速度として知られており、選手の質量中心をトラックに対して水平へと推進するために、(スティフネスの調節を介した)SSCが用いられる。  以下に、現場での状況におけるスピード向上を行う際に考慮すべきパフォーマンス強化や傷害予防に関する重要なトレーニングの目的を示す。  ・ストライド頻度を高める手段として、接地時間の短縮を重視する。前述の通り、これには高いレベルの爆発的筋力が必要である。この特質(quality)は一貫したスピードトレーニングとともに適切にデザインされたストレングストレーニングプログラムにさらされることによって、体系的に発達する。  ・スプリントの各ステップのための力積の大きさを増加させる手段として、SSCのさらなる発達を強調する。とくに、トップスピードに達した選手は、高い力をSSCを用いたより短い立脚局面で生み出す。完全なウェイトリフティング動作とその派生動作は、オープンスプリント中に生み出される力よりも大きな力を伴うSSCの過負荷において鍵となるエクササイズである。 アジリティのパフォーマンスと方向転換能力  フィールドおよびコートで行う競技において、事前に計画した方向転換動作とともに、ボールあるいは試合、相手選手への反応としての方向転換が相当の数生じる。野球やソフトボール、アメリカンフットボール、バスケットボールといったスポーツでは、選手らは走る経路について、動作の開始前に決断する。そういったパターンは、素早い、あるいは突然の方向転換を含んでいることがしばしばある──たとえば、捕球の前に飛び出したベースへと爆発的に戻るなど。しかしながら、多くの競技においては、相手選手や戦術的状況に反応して素早い方向転換を行うことも含まれている。そういった反応は、攻守いずれの場合でも起こることがあり、そのようなパフォーマンスの身体的動作や知覚認知の側面は選手に対して異なる需要を課す。したがって、アジリティパフォーマンスに関連する要因について、身体的な観点(方向転換能力)から、また知覚認知の側面(アジリティ)から完全に理解すべきである。  >競技選手は、さまざまなスピードや動作の様式の中で、無数の身体的要因および技術的スキルの発達によって、方向転換能力を向上させる。アジリティの向上は、そのスポーツの需要に関連した知覚認知能力の改善も必要とする。 方向転換および知覚認知能力に影響する要因  動作のプラント局面(図19.4)の中で、接地時間と地面反力が方向転換のパフォーマンスに影響を及ぼす身体的要因に価値ある洞察をもたらすということが明確になってきている一方で、知覚認知的要因もアジリティに関して考慮すべきである。方向転換およびアジリティの動作を浅いカッティング角度(75°未満)で短い接地時間(250ms未満)の中で(83)行うことは、身体的需要に関してスピードを類似させたトレーニングから恩恵を得られるが、さらに追加的な知覚認知トレーニングが必要となる。一方で、方向転換がよりアグレッシブ(積極的)なカッティング角度(75°以上)で、より大きな制動が必要となるために接地時間が250msを超過することがしばしばある(8,38,54)。したがって、再加速の間、短縮性の爆発と合わせて伸張性筋力および最大筋力をより強調することを考慮すべきである。図19.11に、さまざまな要求(方向転換の角度あるいはアジリティの知覚認知的要求)が地面反力および接地時間にどのように影響を及ぼす可能性があるかについての例を示す。とくに興味深いのは、方向転換の方法の違い(同じ角度のカッティングで)が地面反力や接地時間に及ぼす影響である。方向転換の方法の影響は、図19.11でみることができる。すなわち、505テストは測定環境で行うことのできる片脚の方向転換(外側の脚のターン)あるいは「ジャンプターン」を行うが、プレーのフィールドでは一般的ではない。それにもかかわらず、これは選ばれた技術が需要を明らかにすることを示す。したがって、特異的な適応を引き出そうとする場合、特異的な指導を提供すべきである。  アジリティパフォーマンスの評価に用いられるテストは、認知的なアジリティ能力に影響を及ぼす。「アジリティ」を評価するために過剰な測定が用いられているが、反応という側面のない測定は、方向転換の測定であると考えられ、反応の刺激を含む測定は現在では当然にほとんどの競技においてアジリティの測定に用いられている。さらに、そのテストの要求は、方向転換能力あるいは知覚認知的な要求だけでなく、要因の評価という結果をもたらす。したがって、テストが「アジリティ」あるいは「方向転換能力」の評価に用いられるかどうか、十分に知らされるべきである。たとえば、サッカー選手にしばしば用いられるイリノイアジリティテスト(Illinois agility test)(91)は、プレシーズントレーニング後に用いられた場合、イリノイアジリティテストの間に起こったパフォーマンス向上は代謝的容量の改善によるものであり、必ずしも方向転換能力の改善は起こっていない。これは、より短いテストよりも高い代謝的需要を課すイリノイアジリティテストの長さによるものである。  しかしながら、伝統的な505テストや修正505テスト(最初の10mを行わない505)、Lランと同様の長さのテストであっても、修正された関係のみであり(31)、すべての種類の方向転換能力あるいは同じく下支えする身体的要求を必ずしも評価しているわけではない。このことは、いくつかのテストが素早い方向転換を必要とする一方でそれ以外のテストが複数の方向転換を必要とすることが実現されたときに、より明らかになる。複数の方向転換を伴うテストは、素早い減速が求められる鋭い方向転換と比較してできるだけ速度を維持しながら、より低い姿勢で物体(コーン)の周囲を回ることがしばしば必要となる。したがって、イリノイアジリティテスト、あるいはLランといったテストは、アグレッシブに方向転換をする代わりに速度を維持するために膝を曲げることが求められ、操縦性(機動性 maneuverability)のテストであると考えられる(58)。これに関して、表19.2に方向転換およびアジリティテストや、「アジリティ」の領域内における異なる身体的要求に対応するドリルの例を示す。方向転換およびアジリティ能力を決定する際には、その競技において最も重要な側面を考慮すべきであり、また本当のアジリティテストの中で求められるさまざまな種類の方向転換能力と知覚認知能力を測定およびモニターすることを考慮すべきである。 方向転換能力  先ほど述べたように、方向転換能力の何が測定されるかについては、選択された方向転換テストによって課される需要によってさまざまであるということを理解する必要がある。したがって、異なるテストを選ぶことは、複数の方向転換を伴い、またこれから議論するシナリオ(状況)や相手選手、刺激への反応として、高速において求められる制動能力を測定するうえで有用かもしれない。方向転換能力に関するその他の考慮事項は、選手が止まるにつれてトランジション局面を通して、また方向転換を終えて再加速するにつれて姿勢を取る際の減速を招く身体の向きである。したがって、体幹の姿勢は方向転換のパフォーマンスに影響を及ぼすだろう。つまり、減速の能力と、意図した移動方向へ完全にあるいは部分的に方向を変える能力の組み合わせが、方向転換能力を本当に決定づける。  素早くモーメントを変えるために求められることを考慮すると、一流バスケットボール選手をTテストによって評価した際、筋量の増加と脂肪の減少は方向転換パフォーマンスの予測因子であるとされる(16)。それ以外の形態計測やその方向転換能力との関係についてはここでは議論しないが、身長や手足の長さといった側面は、ストレングス&コンディショニング専門職によって修正することはできない。その代わり、身体の質量中心の高さが側方への方向転換パフォーマンスに関連しており(78)、トレーニング中に積極的に目標とすることができる。  全般的に、さまざまな動作パターン(さまざまなカッティング角度)における方向転換能力は股関節伸展速度(股関節伸展筋群による素早い力の適用)の増加に伴って改善することが示されてきており、質量中心の高さが低いことは、制動および推進の力積を増加させ、また方向転換に入るときの膝屈曲を増加させ、方向転換に入るときの体幹の各変位を最小化し(減速局面)、側方への体幹の傾斜を増加する(180°の変化まで)(15,70,78,83,84,86)。前述のように、減速し、身体の姿勢を保ち、それから再加速することは速い方向転換・アジリティパフォーマンスのキネティックおよびキネマティックな要求によって記述される方向転換の課題において重要であるため、よりよい方向転換パフォーマンスの向上のための動的・等尺性、とくに伸張性筋力の能力に関する筋力向上のためのアプローチが必要であるというのは明らかである(41,86)。スプリント向上とは対照的に、ドロップランディングや負荷のあるジャンプからの着地、パワークリーンあるいはパワースナッチのキャッチ局面といった高速の伸張性筋活動(28)を用いて制動能力のための神経筋の要求をとくにトレーニングするべきであるという理解と共に、神経筋が制動局面中に求められるローディングのレートに効率的に適応することができるようなトレーニングを経験することが選手に対して推奨される。これらすべての異なる伸張性の着地の需要が、股関節や膝関節、足関節に生じる(56)。 知覚認知能力  素早く方向を転換する身体的能力が存在するとき、プレーのフィールドにおいて身体的および心理的にパフォーマンスを行うために一緒に発達させなければならない能力である知覚認知能力の構成要素に注目することができる。知覚認知能力には、いくつかの構成要素がある。すなわち、視覚的探査、予測、パターン認識、状況についての知識、意思決定の時間および正確性、反応時間である(75,77,83,97,98)。これらの側面の発達の多くは、競技特異的であり、統合的な議論は本書の範囲を超える。しかしながら、これらのスキルの改善を助ける一般的なドリルは、アジリティを向上させる方法のセクションで議論される。 技術的なガイドラインとコーチング  スプリントと比較して、方向転換およびアジリティは方向転換中に起こる多数の動作により、大きな範囲の自由度を持っている。さらに、アジリティのパフォーマンスは相手や戦術的制約、シナリオにより制限を受け、あるいは決定され、単一の技術を用いることを通してトレーニングすることはできない。それにもかかわらず、以下にいくつかの技術的ガイドラインとコーチングの示唆を示す。 視覚的なフォーカス(焦点)  ・相手選手(攻撃、守備のどちらでも)に反応して方向転換を行う場合、選手は両肩や体幹、股関節に注目すべきである。  ・そのできごとの予測にしたがい、だますことを意図せず、身体のトランジションを導くのを助けるために、選手は素早く新しい領域へと注意を向け直すべきである。 制動および再加速中の身体姿勢  ・減速へ入るときに体幹を制御する(体幹の大きな動きを減らす)(70)。  ・立脚局面を通して、より効果的な再加速ができるよう、体幹および股関節を意図した方向へと向け直す(15)。  ・加速のメカニクスとともに、足関節、膝関節、股関節、そして体幹、肩までの力強い(strong)アライメントを伴う身体の傾きは、適切に地面を通して力を適用するうえで非常に重要である。  ・より低い質量中心で、入るときと出るときで方向が変わる。すなわち、サイドシャッフルにより方向が変わるが、この低い質量中心を維持することが非常に重要である(78)。 脚の動作  ・選手が効果的な膝関節の可動域を通じて伸張性の制動負荷を効果的に消散あるいは許容させることを、また脚を伸ばした形での制動を避けることを確実なものとする(81,83)。  ・とくにクローズドドリルを学ぶ際、パフォーマンスを促進するために「地面を押す(pushing the ground away)」というのを強調する。外的な注意の焦点──指導を通して、身体の部位ではなく地面に集中する──によって、方向転換パフォーマンスが改善することが示されている(64)。 腕の動作  ・脚の駆動を促進するために、力強い腕の動作が用いられるべきである。  ・腕の動きが逆効果にならないこと(すなわち、スピードあるいは効率を減少させる原因とならないこと)を確実なものとする。これはとくに難しい方向転換(例:バックペダルからスプリントへ)のトランジションに当てはまる。 トレーニングの目標  アジリティパフォーマンスの3つの目標は、さまざまな状況あるいは戦術的シナリオにおける知覚認知能力の促進、効果的で素早いモーメントの制動、新しい移動方向への素早い再加速である。これらの目標に合致するよう、以下を強調すべきである。  ・攻撃側あるいは守備側の相手選手の動きを予測する知覚的機能を高めるために、視覚的な焦点を相手選手の肩、体幹、股関節に向ける(75)。  ・制動力を最大化するために、力を地面に対して効果的に加えることができる姿勢へと身体を向け、制動しなければならない方向からと同じく素早くストップできるところからスピードを高める(前方あるいは後方へのランニング、側方へのシャッフル)(15,70,78,83,84,86)。  ・制動後によい姿勢を維持し、新しい方向へ身体を向け直し、再加速するために加速のメカニクスを用いる能力(58)。 スピードの強化法  実践的な見地から、適切なスピードを示すことは、必要なスキルセットを組織的に発達・成熟させるためにうまく整理されたプログラミングの結果である。この組織的なスプリントトレーニングへのアプローチは、加速や最大速度といった複数のある特質(qualities)の強調あるいは脱強調(de-emphasis)に基づく発達の図式の結果である。さらに、トレーニング計画はこれらの各特質の数々を位相性の(phasic)漸進を通して強調させるべきである。うまく構築されたトレーニング計画は、選手の動作の可能性を完全に最大化するのを助ける特異的な構成要素を強調する。 スプリント  競技パフォーマンスの最適化のために、さまざまなトレーニング刺激が重要であるが、最大速度スプリントほどランニング速度を改善するものはないと主張することができるだろう。競技選手の優れた能力は、短時間で高い力を生み出すことに依存している(52,93)。最大筋力および動作速度を強調した長期的トレーニング計画の結果として起こる神経学的適応によって、RFDと力積の両方が改善される(1,89)。ストレングス&コンディショニングの状況では、ウェイトリフティング動作とジャンプトレーニングがさまざまな負荷でRFDと力積を向上させるために処方されており、これはそれらの動作がSSCを用いるからである。同様に、直立でのスプリントはプライオメトリック動作であると定義されるSSCを用いている。SSCを引き出す動作に長期にわたってさらされることで、潜在的にスプリント能力において生理学的に有利となる筋のフィットネスが向上する(29)。  加えて、スプリントは最大に近いところから最大の筋の賦活を必要とし、これは中枢神経系の高い賦活に依存する。この活動は、しばしばレートコーディング(rate coding)と呼ばれる(47,68)。信号の頻度が閾値に達すると、骨格筋は刺激と刺激の間で完全に弛緩しなくなることがある(47)。不完全な弛緩の結果、続いての収縮においてより力強く、RFDがより大きくなる(57)。したがって、長期にわたってスプリントにさらされることで、中枢神経系を介した筋骨格系の改善を導く可能性がある。このことが、循環的な用量-反応関係(訳注:ここではトレーニング量と反応の関係)という結果となり、これまでの練習からの神経生理学的適応が続いてのトレーニングの支えとなる。スプリント改善のために要求される力を促進し、潜在的な神経筋の適応を目標とする努力の中で、レジスティッド(抵抗をかけた)またアシスティッド(補助のある)トレーニングテクニックがしばしば行われる。提唱されている利点や、潜在的な不利益、コーチングにおける配慮については表19.3に概略がまとめられている。 筋力  本章を通じて述べたように、スプリントのスピードは選手が短い時間内に生み出す大きな力によって下支えされている。これらの力は、(a)重力が存在する中で体重を支え、また(b)速度が増加する中で身体を変位させるうえで十分な大きさでなければならない(52)。したがって多くのストレングス&コンディショニング専門職は、スプリントを基礎に置く選手におけるウェイトトレーニングの重要性について意識している。ストレングストレーニングの議論の中心は、新たに向上させた筋力の特質をウェイトルームからトラックへとどのように移行するのが最善であるか、ということである(96)。筋力向上をスプリントへ移行するには、トレーニングの特異性を強調することが必要となるだろう。このトレーニング効果の移行には、パフォーマンス適応の程度が関わっており、エクササイズと競技環境における動作パターンやピークフォース、RFD、加速、速度パターンの類似性の結果かもしれない(87)。  最大筋力のトレーニングは有用であるかもしれないが、トレーニングは最大筋力とスピード筋力の特質を結合させるという狙い(agenda)を強調すべきである(34)。力や速度がスプリントにおけるそれらと類似することを示す機会をもたらすエクササイズや動作の選択は、レートコーディングや発火頻度とともに、横断面積や筋線維束長といったタイプII筋線維の変化を促進する可能性がある(30,33)。たとえば、クリーンやスナッチ、ミッドサイプルといったウェイトリフティング動作やその派生動作は、筋スティフネス、RFDの促進、股関節や膝関節周囲の筋の共活性化(coactivation)といった生理学的適応を通じてスプリントのパフォーマンスを促進する可能性があることがエビデンスによって示されている(6,18,24)。 可動性  キネティック(運動学的)な変数ではないが、軟部組織のマニピュレーションはスピード向上の実務において用いられることが増えている。コーチやトレーナーは、動的な状態における適切なモビリティを達成しようとしてストレッチングやカイロプラクティック的なケア、マッサージ、筋膜リリースといったツールを頼りにする。モビリティとは、求められる可動域を通して動かすための四肢の自由さを示すものであり、一方で柔軟性とは、関節全体の可動域を示すものである。姿勢的な特徴がパフォーマンスにおいて制限要因となるという理解を持ち、コーチは練習や試合が始まる前に適切な姿勢の統合性が準備できることを確実なものとすべきである。  これまでに述べたスピードの構造に基づき、現在受け入れられているスプリント成功のモデルは、短時間で地面反力を生み出し、打ち勝つ能力に基礎を置く。さらに、これらの地面反力は、適切なストライド長を生み出す助けとなるものの、フライト局面中の選手の姿勢は、可動性が不十分な場合に制限を受ける。とくに、選手は短時間で高い割合で力を得るのに(高RFDに)必要な身体的な特徴を持っていることがあるが、関節の自由さが損なわれると本来の力を出すことができないという結果となる。誤った接地による不適切な力の適用は、スプリントスピードを下げ、ケガの可能性を高めるという結果につながる。 アジリティの強化法  本章を通じて議論したように、アジリティのパフォーマンスにおいて継続的な向上に求められる身体的および知覚認知的な側面の両方を発達させるには、多面的なアプローチが必要となる。したがって、さまざまな筋力向上戦略を用いた身体的能力による下支えを目指す計画や、動作特異的な動きを伴うクローズドスキル環境における技術的な適性(方向転換能力)、アジリティドリルやスキル練習に固有の側面を通した知覚認知能力の改善を考慮すべきである(58)。 筋力  スピードのための筋力向上と同様に、アジリティのための筋力向上は相対的筋力と力-速度の連続体に沿ったさまざまなスピード筋力の特質の両方を強調すべきである。しかしながら、方向転換およびアジリティ動作中の大きな制動力による伸張性筋力の追加的な向上を考慮すべきである。このことは、トレーニングエクササイズにおいて、フィールドにおけるさまざまな負荷-速度特性の身体活動とともに、スクワットジャンプやカウンタームーブメントジャンプ、さまざまな高さからのドロップジャンプといった方向転換やアジリティドリルそのものを組み合わせたウェイトルームにおける負荷-速度の連続体(32)を含むことができることを意味する。アジリティの多面的な性質により、筋力向上において多方面的なアプローチが保証される。表19.4には、アジリティパフォーマンスを下支えするのに必要な筋力を、ウェイトルームおよびフィールドでどのように充足させることができるかについての例を示す。選手は新たに獲得した筋力を技術的な適性へと移行することができるようになる前に、身体的要求を向上させるということを理解すると、コーチおよび選手の両方にとって、何らかの技術的スキルのパフォーマンス獲得は、基礎的な身体的要求に遅れるということを認識するうえで手助けとなる(88)。 方向転換能力  各ドリルの強度および難易度に基づくプライメトリックな身体活動の漸進と同様に、クローズドスキルの方向転換ドリルは、本章で議論した身体的負荷の需要に基づき、初心者から中級、上級レベルへと漸進させることができる。表19.5に、方向転換能力(素早い方向転換と、それに伴う操縦性)のためのドリルの漸進の例とともに、アジリティドリルのための漸進的計画を示す。アジリティドリル中は初心者の方向転換ドリルよりも身体的負荷が高くなるだろう。したがって表19.5には、一連のドリルや安全かつ効果的に選手を進歩させるためのガイドラインを実務者に提供することで、身体的および技術的な寄与の改善が得られるだろう。 知覚認知能力  数年にわたる(競技内における)スキルトレーニングの中で、選手らは視覚的探査、パターン認識、状況についての知識を継続的に促進する一方で、アジリティを改善するために用いられるドリル(スキル練習以外)の中では主に予測や意思決定時間、正確性に焦点を合わせる。継続的にパフォーマンスを改善するための身体的課題の需要を日常的に高めるのと同じ方法で、知覚認知能力を高めることができるだろう。したがって、アジリティの身体活動は一般的なクローズドスキルの方向転換ドリルに知覚認知の構成要素を加えることによって始めるべきである。たとえば、減速あるいはZドリルは笛やコーチの指示、矢印、光などの一般的な刺激を含めることによってアジリティに組み込むことができる(76,97)。前述のアジリティドリルがうまくいった後、漸進には回避ドリルやスモールサイディッドゲーム(ミニゲーム)といった競技特異的な刺激を必要とし、それらはパフォーマンスへのよりよい移行があると言われている(76,97)。一般的および特異的な刺激の両方により、選手に対する時間的および空間的ストレスが漸進的に増加し、アジリティドリルにおける難易度がより高くなる。 プログラムデザイン  プログラムデザインは、ミクロサイクル(短期)、メゾサイクル(中期)、マクロサイクル(長期)という複数の段階で行われる。この過程はピリオダイゼーションと呼ばれる。ピリオダイゼーションは、作業負荷(ワークロード)のサイクルおよび段階によって定義される、順序立てられたトレーニング局面を経ることを通して選手の準備を戦略的に操作することである。これらの計画された作業負荷は、トレーニングに起因する疲労と適応の間の関係を調和させるような計画されたプログラム戦術の統合を促すために変化がつけられる(22)。さらに、ピリオダイゼーションの過程は、選手をモニターする中で集められる情報によって導かれる。とくに、選手がトレーニング期を通じて漸進するにつれて、さまざまなモニタリング戦略から得られた一定の情報により、その選手がそのトレーニング刺激に対して短期的にどのように反応しているか、また長期的にどのようにより発達させるべきかを示す上で助けとなる──つまり、元々のトレーニングプログラムをトレーニングへの反応を反映してどのように修正すべきかの助けとなる。  計画作成のそれぞれのレベルで、ストレングス&コンディショニング専門職はある変数を操作する。これらは作業負荷を定量化するとともに、トレーニングの狙いを特徴づけるうえで有用である一方で、コーチらは各変数を個別に考慮すべきであり、また各変数が全体のシステムにどのように影響するかに関して考慮すべきであるというのを留意しておかなければならない。さらに、モニタリングによって明らかとなる個別の選手のトレーニング反応は、これらの変数の操作に用いるべきである。  ・エクササイズ(あるいは運動)のインターバル──反復を行う際の継続時間または距離  ・エクササイズの順序──反復のセットを行う際の順序  ・頻度──ある期間(例:日、週)内に行われるトレーニングセッション数  ・強度──反復する際の努力の程度(最大に対するパーセンテージ)  ・回復(休養)の時間──反復回数およびセット間の間隔  ・反復回数──課せられたトレーニング負荷または動作テクニックの実施回数。  ・シリーズ──セットとセット間の休息時間の繰り返しのまとまり。  ・セット──一連の反復回数(動作の連続)とその後の休息時間。  ・トレーニング量──一定のトレーニングセッションまたは時間内に行われるトレーニングの総量(例:5回×3セット)。  ・運動と休息の比率──運動-休息比で表される各セット内の運動に対する休息時間の相対的な密度  ・量-負荷──処方された強度で行われる量の密度(例:100kgを5回×3セットを行った場合、量-負荷は1500kgとなる)  第21章ではレジスタンストレーニングのプログラムにおけるピリオダイゼーションについて説明しており、同じコンセプトをスプリントや方向転換、アジリティトレーニングに適用することができる。 スピード向上の戦略  スピード向上のために計画を立てる過程は、ストレングス&コンディショニング専門職がウェイトルームで用いるものと非常に類似している。とくに、戦術の計画は特定の特質への強調と脱強調を通じて、スプリントの身体的・心理学的な構成要素に対応した手法によって期分けすべきである。選手のスプリント能力は、未来のトレーニングの狙いの効果を強化する可能性のあるフィットネスの特質を完全に最大化および浸透させるためにデザインされたトレーニング期間を取り込むことを通じて改善させることが可能である。  スピードを促進するために、実践者は人間の移動と力の産生の関係について考慮すべきである。本章を通じて、著者らはスプリントの成功と、ある生理学的現象との間の関連について指摘してきた。一流のスプリント選手は、短時間で大きな力を生み出す。この高いレベルの力により、スプリント選手はより長いストライド長をより速いレートで生み出すことができる。トラック上でこの動きを表出することができるのは、促進された神経筋系の要因、つまり最大筋力、RFD、力積を反映している。これらの変数は、課題に特異的な運動単位の筋肥大や、発火頻度、レートコーディング、筋腱スティフネスといった特質を促進することを狙いとした、よくデザインされたトレーニングプロトコルの産物である。  適用の表において示したスピード向上のための例では、一連のトレーニング期が、最大速度に向けた努力を実施する前に加速能力を高めることを通して、どのように継ぎ目なくスプリントの潜在力を伸ばしているかについて表している。短期から長期のスプリントトレーニングの手法として参照することができるこのモデルは、より大きな加速率およびスプリント速度の間の関係を結合することを意図した、概念的な漸進である(本章で前述した)(23)。とくに、短い距離から長い距離へというモデルを実施する選手は、スプリントの加速局面に伴うバイオメカニクスを維持する短いスプリントを通して、推進力の出力改善を強調することからトレーニング年を始める。その後に、選手は直立したランニングのメカニクスを通したトップスピードを促進するためのより長いスプリントへとつなげるだろう。この提唱されたモデルの背景となる概念は、加速の向上と最適化への投資(investment)を通じて理想的なレートおよびモーメントで力の産生が起こった場合、選手はトップスピードにおいてより大きな改善があるかもしれないということである(52)。 スプリントアジリティをモニタリングする  選手のスピード能力を評価するうえで長年にわたって用いられてきた典型的な方法は、最大努力直線スプリントである。その中で、最大努力スプリントテストは36.6m(40ヤード)といった選手の競技に関連すると信じられている距離において行われてきた。走り終えるまでの時間は、スプリントパフォーマンスの変化を評価するうえで効果的なツールであるが、これらのテストは選手のレースあるいはフィールドへの準備に向けた漸進についての微細な変化に完全には対応していない。加えて、手動計時による測定誤差や、さまざまなスタート戦術の違いにより、テスト結果の解釈は混乱させられる。結果として、ストレングス&コンディショニング専門職は、評価の組み合わせの一部として、追加的なモニタリングツールの導入を考慮するかもしれない。  そのような評価方法の1つに、ハイスピードカメラあるいは全体的なフットストライクによって赤外線を遮ることを用いた光学的計時システムの補助によるものがある(12)。この技術により、選手のスプリント能力に関するさらなる洞察がコーチたちにもたらされてきた。表19.6に、スピードの向上をモニターするうえで有用となる可能性のある、重要な変数について示している。 アジリティ向上のための戦略  アジリティの向上は、期分けされたプログラミング方法を用いることによって、最も達成される。ランダムなプログラムあるいはスモールサイディッドゲームといった「競技特異的方法」のみを用いてアジリティが向上するかについては明らかになっていない(11)。アジリティはプレーのフィールドあるいはスキル練習において不変の要素であるが、アジリティ向上を(事前に計画された)方向転換ドリルから始め、身体的需要を高める、すなわち方向転換ドリルに続いて知覚認知的ストレス、いわゆる「アジリティ」ドリルを付加することによって難易度を漸進させることが推奨される(50,97)。この推奨と並んで、アジリティの向上は選手の方向転換能力およびアジリティの評価に基づくニーズ分析から始めるべきである。アジリティテストは、表19.2で前述したように、特異的に知覚認知的能力を測定すべきである。さらに、その競技の追加的な動作の要求によって、操縦性により大きく依存するテストを用いることを選択する場合もあるかもしれない。以下は、情報に基づくアジリティプログラムを作成する際にこの種の測定の情報を用いる例である。 アジリティおよび方向転換の能力をモニターする  スプリントパフォーマンスをモニターする際に考慮された概念と並んで、選択したテストを完了した時間によって方向転換およびアジリティの両方のパフォーマンス改良をシンプルに評価することは、調べたい実際の方向転換能力である身体的な特質や知覚認知的な特質を単独で取り出して見ているわけではない(59,61,81,85)。したがって、方向転換あるいはアジリティパフォーマンスをモニタリングする際には、ストレングス&コンディショニング専門職は表19.7の手法を考慮するかもしれない。パフォーマンスのこれらの側面は、三次元動作解析装置といった高価な機器を用いることで測定されてきたが、ハイエンド(最高級)なバイオメカニクスの装置がなくても、容易に利用できるハイスピードカメラ(毎秒100フレーム以上の撮影が可能)を、通常の計時方法(手動あるいは電子計時)と組み合わせて、簡単に測定に用いることができる。 まとめ  スピードや方向転換、アジリティは、ほとんどの競技の文脈において、よく確立された競技能力の尺度である。この理由のため、ストレングス&コンディショニング専門職はそれらの能力がトレーニング計画のデザインおよび実施を通じてどのように確立され、改善されるかについて知っていなければならない。これらの競技の動作や試合のプレーにおける構成要素は、課題に特異的な力の適用によって下支えされている。この課題特異的な力の産生は、重力の存在下において選手の体重を安定させ、選手をある地点から別の地点へと変位させ、高速で移動させ続けるうえで十分なものであるべきである。  ランニングスピードは、ストライド長および率の間の関係との関わりがある。スプリントは、短い時間内における大きなRFDによって定義される、最大に近い、また最大のランニングである。成績のよいスプリント選手は、より長いストライド長さがより速いレートで生じる結果として、より遅い選手よりも長時間、空中にいることになる。アジリティには、刺激への反応として爆発的に動作速度あるいは様式を変化させるうえで必要なスキルと能力が含まれる。スプリントおよびアジリティの両方とも、より遅い動作と比較してSSCとより効率の高い神経筋を用いる。しかしながら、アジリティは視覚的探査や意思決定、予測、反応時間といった、トレーニングの特質を分ける知覚認知的な需要を含む。  ストレングス&コンディショニングコーチは、周期的および連続的なトレーニング期の並びを通じて、これらのパフォーマンスの性質を改善させることを狙い、スピードやアジリティ、方向転換の練習あるいはこれらの組み合わせと、ストレングストレーニングを協調させるべきである。このトレーニング効果は、課題特異的で適切な動作メカニクスを促進するエクササイズを取り込むことによって最良の結果を導くことができるかもしれない。処方されるトレーニングは、年初や長い期の最初の時点でのニーズ分析評価の結果を反映させるべきである。さらに、続いてのトレーニング計画は、選手がプログラムの狙いにどのように反応するかについてストレングス&コンディショニング専門職が調べるのを手助けする、オンゴーイングの(今まさに行われている)モニタリングのプログラムを通して最適化すべきである。 重要語句  加速(acceleration)  アジリティ(agility)  方向転換(change of direction)  コンプレックス(複合)トレーニング(complex training)  力(force)  接地準備(ground preparation)  力積(impulse)  モーメント(momentum)  ピリオダイゼーション(期分け)(periodization)  活動後増強(postactivation potentiation)  力の立ち上がり速度(rate of force development:RFD)  回復(recovery)  スピード(speed)  ばね質量モデル(spring–mass model:SMM)  スプリント(sprinting)  筋力(strength)  ストレッチ-ショートニングサイクル(stretch–shortening cycle:SSC)  速度(velocity) 例題  1. 力積という言葉は、何を指すか?  a. パワーと速度の間の関係  b. 加速と速度の間の関係  c. 力と速度の間の関係  d. 力と時間の間の関係  2. 一流のスプリント選手は、初心者の選手と比較して___力を___接地時間内で生み出す。  a. より大きな、より長い  b. より小さな、より短い  c. より大きな、より短い  d. より小さな、より長い  3. 直立でのスプリントにおいて、選手のストライド長は___に大きく依存する。  a. スタンス局面において生み出される垂直力の大きさ  b. 選手の柔軟性  c. 選手のストライド率  d. スタンス局面のトウオフ(つま先の離地)において生み出される水平力の大きさ  4. 笛や矢印、相手選手といった刺激に反応して、素早く動くことが求められるドリルやテストは、以下のどれを測定するうえで最適か。  a. 方向転換  b. 操縦性  c. アジリティ  d. 加速  5. 方向転換の能力の改善が狙いである場合、追加で強調することが要求されるトレーニングの側面について選択せよ。  a. 筋力  b. 伸張性筋力  c. 反応筋力  d. RFD(力の立ち上がり速度)