第16章 代替的様式および非伝統的用具のためのエクササイズテクニック  G. Gregory Haff, PhD, Douglas Berninger, MEd, and Scott Caulfield, BS  本章を終えると  ・代替的様式および非伝統的用具を用いたレジスタンスエクササイズを行う上での基本的なガイドラインを理解することができる。  ・自体重トレーニングの利点と限界について述べることができる。  ・コアトレーニングに関連した利点と限界について特定することができる。  ・代替的様式のエクササイズに関連する適切なテクニックと鍵となる欠点について特定することができる。  ・レジスタンスバンドやチェーンを、伝統的な床の上で行うフリーウェイトエクササイズにどのように適用するかについて、適切に決定することができる。  ・代替的様式および非伝統的な用具を用いたエクササイズの適切な使用について決定することができる。  代替的様式および非伝統的な用具を用いたエクササイズは、ストレングス&コンディショニング専門職の間で広がってきている。この種のトレーニング方法をトレーニングプログラムにおいて実施するときはいつも、これらの方法が安全に用いられることが確実なものとなるよう、基本的そして特異的なガイドラインを考慮すべきである。 一般的ガイドライン  代替的様式および非伝統的な用具を用いたエクササイズを行うにあたって、一般的なガイドラインは伝統的なレジスタンストレーニング方法とそれほど異なるわけではない。身体の姿勢が安定していると、安全を達成し維持することができ、エクササイズを行う際に身体のアライメントが適切であることは、骨格筋に対して適切なストレスを与えるうえで必要である。床の上で支持なしで立つエクササイズでは、左右の足の幅は肩幅よりやや広げるのが典型的である。不安定なデバイス(用具)を使うと、安定性を得ることを確実なものとするために身体の姿勢を修正する必要があるかもしれない。代替的様式や非伝統的な用具を用いたエクササイズで用いられるグリップは、第15章で示した伝統的なエクササイズで用いられるグリップであることが典型的である。グリップは、特定のエクササイズでの需要に基づいて選択される。加えて、多くの非伝統的な用具においては、グリップはエクササイズのパフォーマンスにおいて制限要因となる場合がある。  より伝統的なエクササイズと同様に、代替的方法においてしばしば推奨される呼吸パターンも、動作のステッキングポイント(コンセントリックの部分)を通じて息を吐き出し、よりストレスの少ない部分(エキセントリックの部分)の間に息を吸い込むというものである。たとえば、スタビリティボール上でダンベルチェストプレスを行う選手は、胸に向けてダンベルを下げていく間に息を吐き出し、胸からダンベルを押して離していく間に息を吸い込む。ストラクチュラルエクササイズ(体軸性骨格に負荷をかけるエクササイズ)では、息を止めることも正当化されるかもしれない。しかしながら、最大随意収縮の80%を超える重量を挙上する場合、あるいはより軽い負荷の挙上に失敗した場合、バルサルバ法(声門を閉じて強制的に息を吐こうとすること。訳注:いきみ)は避けられないかもしれない(32)。バルサルバ法により、腹腔内圧が高まり、脊柱の安定が得られ、これは非伝統的エクササイズを行う上で利点となるかもしれない。たとえば、ログクリーンにおいて、エクササイズのプルおよびキャッチ局面で、選手はバルサルバ法を行うかもしれない。その後、選手は直立姿勢をとった後、息を吐き出すだろう。第15章では、バルサルバ法についてより多くの情報を示している。 自体重トレーニング法  自体重トレーニング法は、レジスタンストレーニングを行ううえで最も基本的な方法の1つである。とくに、この種のエクササイズでは、抵抗(レジスタンス)をもたらすためにその個人の体重が用いられる(37)。プッシュアップやプルアップ、チンアップ、シットアップ、スクワットスラストといった身体活動は、次体重トレーニングの文脈で言及されるのが典型的である。しかしながら、柔軟体操や体操、ヨガといった身体活動も、すべて自体重トレーニングの方法論として分類される(37)。Behmら(10)が述べたように、体操は伝統的に体育の体系の一部であり、この種のトレーニングはコアの筋系の発達を強く促進する。これらの筋が強化されると、ケガの可能性が減少すると考えられる。自体重トレーニングは、相対的な筋力レベルを発達させることができる、低コストのトレーニング方法を提供すると考えられる。  自体重レジスタンストレーニングに関連した問題の1つは、抵抗負荷はその人の体重が上限となるという事実である。このように、自体重トレーニングは絶対筋力レベルに有意に影響しない傾向がある(37)。自体重エクササイズの強度を高くするためには、回数を増やす、動作パターンを変えるといったいくつかの方法がある。回数を増やすことで作業負荷を変えることができるものの、目標とする結果が筋力から筋力-持久力へと移行し、筋力の向上という目標とする出力から遠ざかることになるだろう。自体重エクササイズに単純な修正を加えることで、これらの限界のいくつかを取り除くことができる。たとえば、プッシュアップの際に両脚を挙上することによって、動作パターンを変えると、生じる抵抗が大きくなるだろう。サスペンションデバイス(訳注:吊り下げるような用具のこと)が自体重エクササイズにもちいられ(71,72)、また筋活動パターンの増加も示されている(51)。Snarr and Esco(72)は、安定した床の上で行う伝統的なプッシュアップと比較して、サスペンションデバイスを用いて行うプッシュアップは筋活動が有意に大きいことが示されている。 コアスタビリティとバランストレーニングの方法  健康全般の改善や、ケガからのリハビリテーション、競技パフォーマンスの向上を意図してコアをトレーニングすることに対する関心が高まっている(10)。コアスタビリティおよびバランスを目標として、伝統的な床で行われるフリーウェイトエクササイズから、不安定なデバイスで行われるトレーニングまで、広い範囲の介入が実践的な論文(文献)において実施された。 解剖学的な注目  「コア」という用語は、一般向けメディアやいくつかのトレーニングに関するジャーナル(10)において、体幹あるいはより特定して腰椎骨盤領域を指して広く使われている(81)。しかしながら、科学的文献の解釈において、正確で一貫したコアの定義は、好意的にみても乏しい(10, 82)。典型的には、解剖学的なコアは、体軸性骨格と、その体軸性骨格に起始を持つすべての軟部組織であると定義されている(9,10)。体軸性骨格には、骨盤と肩甲帯を含み、軟部組織には関節軟骨や線維軟骨、靭帯、腱、筋、筋膜を含むことに注意することが重要である(10)。最終的には、軟部組織が働いて力を生み出し(短縮性筋活動)、また動きに抵抗する(伸張性および等尺性筋活動)。  キック動作や投動作といった統合されたキネティックチェーンの活動を行う際、コアに関連する筋群によってトルクおよび角運動量の伝達が可能となるのが典型的である(81)。実際に、Willardson(81)は、選手のコアスタビリティの増加は、上下肢において力を生み出すうえでよりよい基礎となる結果となることを示唆している。 アイソレーションエクササイズ  アイソレーションエクササイズは、上下肢が寄与することなく、特定のコアの筋系のダイナミック(動的)あるいはアイソメトリック(等尺性)筋活動において構成される(10)。たとえば、コアをアイソレートするために行われる一般的なエクササイズは、プローンプランク(68)およびサイドプランク(78)である。この種のアイソレートされたエクササイズは、筋活動を増加させることができるというエビデンスがあり、脊柱の安定性の向上やケガの減少という結果につながることが示唆されている(56)。このような活動によりトレーニングをしていない人やケガから回復している途中の人にとっては、パフォーマンス改善につながることがエビデンスにより示唆されるが、これらの活動がスポーツパフォーマンスの改善に転移するという考えに対する支持は限られている(65,81)。実際に、最近のシステマティックレビューでは、Reedら(65)はアイソレートされたコアトレーニングは、スポーツパフォーマンスの改善にはそれほど有効ではないと報告している。加えて、Behmら(10)とWillardson(81)によると、床で行うフリーウェイトエクササイズ(例:スクワット、デッドリフト、プッシュプレス、スナッチ、体幹の回旋に関わるエクササイズ)は、アイソレートされたコアトレーニングと比較して、実際のスポーツパフォーマンスにより大きな便益をもたらすという強いエビデンスがあるという。床で行うフリーウェイトの身体活動は、コアが働くようにデザインされた伝統的なアイソレーションエクササイズと同様の、あるいは多くの場合、それよりも大きなコア筋系の活性化をもたらす(35,60)。アイソレーションエクササイズは、ケガをした選手が、リハビリテーションの過程で、また伝統的な床で行うフリーウェイトエクササイズで適切な負荷をかけることができない場合に用いるうえで最も有用であるかもしれない(81)。  >床で行うフリーウェイトの身体活動は、コアが働くようにデザインされた伝統的なアイソレーションエクササイズと同様の、あるいは多くの場合、それよりも大きなコア筋系の活性化をもたらす。 マシーン vs. フリーウェイトエクササイズ  フリーウェイトトレーニングの方法とマシーントレーニングの方法を比較した場合、それぞれ利点と欠点がある(10, 34, 75)。マシーンを用いたトレーニングに関しては、マシーンによってもたらされる安定性により、特定の筋群をターゲットとすることがうまくできるようになる結果につながるだろう。しかし、スポーツパフォーマンスの文脈においては、そのようにアイソレートされたやり方で筋が機能することはめったにない(10)。スタビライザー筋に関しては、マシーンによるトレーニングと比較してフリーウェイトトレーニング中におけるこれらの筋活動のほうが高いことが一般的に受け入れられている(33)。この考えを部分的に支持するものとして、Anderson and Behm(2)は、背部のスタビライザー筋の活動は、スミスマシーンでのスクワット時にフリーウェイトスクワットと比較して30%低かったと述べている。加えて、マシーンでの筋力向上は無視できるほどのものである、あるいは競技動作の筋活動パターンに有害作用をもたらす可能性がある、という主張に対する科学的な支持が存在する(2,15,57)。しかしながら、もし床でのフリーウェイトトレーニングを不安定なサーフェスあるいはデバイスを用いて行うことで不安定性が増すのであれば、力の発揮や、力の立ち上がりレート(RFD)、パワー出力が大きくなるのがわかるだろう(23, 49)。したがって、これらのデータに基づくと、フリーウェイトの床で行うエクササイズは、特異性と不安定性の理想的な組み合わせを提供すると考えられ、とくに筋力およびパワーの発達に焦点を合わせる際に当てはまる。最終的には、競技特異的な適応を発達させるための効率的な不安定性は、伝統的な床で行うフリーウェイトトレーニングを介して刺激され、この種のエクササイズに不安定性を追加する必要はないと考えられる(10)。  >フリーウェイトの床で行うエクササイズは、特異性と不安定性の理想的な組み合わせを提供すると考えられ、とくに筋力およびパワーの発達に焦点を合わせる際に当てはまる。 不安定デバイス  不安定なところで行うエクササイズは、不安定なサーフェスあるいはデバイス上で行うことが典型的であり、そのようなサーフェスやデバイスはストレングス&コンディショニング施設で広くみられる。トレーニングにおいて不安定デバイスが広がりをみせているのは、理学療法士がリハビリの過程で用いていることに由来するようだ。これらのデバイスは、姿勢のバランス不良によって必要となる、より大きなコア筋群の安定機能を促進するために用いられる(10,81)。これらのデバイスの使用中に外乱(動揺)が加えられると、姿勢を調整して直立を保つためのコア筋系の活性化が要求されるバランス課題が生じる(19)。  ストレングス&コンディショニング専門職にとって、数多くの不安定デバイスが利用可能であり、最も一般的なのがスイスボール(フィジオボール、ペジジムナスティックボール)である(10)。その他の不安定性をもたらす用具の選択肢には、半球状のフィジオボールに平坦な板がついたものや、空気で膨らませるディスク、ウォブルボード(wobble board、訳注:円盤状の板の下に小さな半球状の突起が出ており、床と平行にするにはバランスをとる必要がある)、フォーム(発泡素材)チューブ、さまざまなフォームプラットフォームがある。砂などの自然のサーフェスも、選手の動作パターンにおいてコア筋系の活性化を高める結果につながる、不安定性を導入するシナリオをつくることができる。多くのストレングス&コンディショニング専門職は、不安定性エクササイズを行うことは、ターゲットとなる主動筋群をトレーニングするが、同時にコアの筋を活性化すると信じている(10)。コアの筋の活性は増加するかもしれないが、この増加は主動筋によって生み出される力の減少に伴って起こると考えられる(9,23)。不安定性エクササイズのトレーニングを行っている間、全般的な力発揮能力(8)や、パワー出力(23)は、不安定な条件下でエクササイズが行われると、安定した条件で可能な値の70%未満となるかもしれない。加えて、このエクササイズの間、RFDが顕著に低下することがある(60)。力発揮やパワー出力、RFDが減少した中でトレーニングを行うのは、選手が準備をするうえで最も危険である。なぜなら、これらの要素はスポーツパフォーマンスにおいて中心となる多くの側面に及ぼす影響が大きいためである。  全体的に、選手が不安定デバイス上でレジスタンスエクササイズを行うことで、顕著なパフォーマンス改善がみられたということを示唆する研究は限られている(21,73)。パフォーマンスの便益が文献で述べられていないのは、トレーニングを積んだ選手においては、パフォーマンス向上を実現させるうえで力の発揮や動作の速度、RFDに関してより大きな適応的な刺激が非常に必要となるだろう、リターンの減少という原理(the principle of diminishing returns)に基づくことが予測されているのかもしれない(10,47)。したがって、不安定デバイス上での静的バランスの身体活動を行うことは、オリンピックリフティングのような安定したサーフェス上で行われる床での動的あるいは爆発的なフリーウェイトエクササイズを実施する前の、バランスやコアスタビリティを改善するための導入的なトレーニングの段階であると考えられるかもしれない(10)。  >床で行うフリーウェイトエクササイズ(例:スクワット、デッドリフト、オリンピックリフト)は、キネティックチェーンの連結すべてを発達させる刺激である、ある程度の不安定性が関わっており、デバイスを用いるエクササイズよりもコアの安定性の発達と競技パフォーマンスの促進のためのよりよいトレーニング刺激をもたらす(10)。  不安定デバイスはリハビリテーションの状況で用いられると、腰痛が軽減し、軟部組織の効率が高まることで膝および足関節を安定させることが示されている(9,10)。膝関節に関連する筋のいくつかは腰椎骨盤領域に起始を持つため、身体のコアは前十字靭帯(ACL)損傷予防において大きく貢献すると考えることができる(58)。実際に、いくつかの研究では不安定デバイスはACL損傷の可能性を減少させるかもしれないというエビデンスが示されており(58)、これはとくにACL損傷からのリハビリテーション後に当てはまる(59)。たとえば、Fitzgeraldら(28)は、リハビリテーションを行う選手がティルトボードやローラーボード、その他のバランスデバイスによって刺激される外乱(動揺)を用いた課題に取り組むことで、5倍の確率で競争的な競技に復帰したことを報告した。加えて、Caraffaら(18)は、伝統的なトレーニング手法にバランストレーニングを加えることは、アマチュアサッカー選手においてACL損傷を減少させる結果となったことを示唆している。しかしながら、システマティックレビューにおいて、Grimmら(31)は、この主張に異議を唱え、この種の介入はACL損傷のリスクを低下させないことを示唆している。対照的に、床で行うフリーウェイトの身体活動は、コアの筋力およびバランス能力を高め、よりバランスのとれた、パフォーマンス改善を導くようである。最終的には、不安定性を用いるエクササイズの使用は、ケガをした選手を競争的な練習へと復帰させるうえで効率的な方法であるようだ。 可変抵抗トレーニング法  レジスタンストレーニングの実践においては、身体に過負荷をかけるために3つの方法がある。すなわち、一定の外的抵抗、調整抵抗、可変抵抗である(30, 54)。トレーニング中に抵抗をかけるのに最も一般的な方法は、一定の外的抵抗であり、伝統的なレジスタンストレーニングにおいて最も用いられている(例:フリーウェイト)。このシナリオでは、外的負荷は可動域全体を通して一定であり、実際の生活における身体活動でもよくあり、より現実的な骨格筋のコーディネーションや動作パターンが可能である(36,54,63)。一方で、調節できる抵抗(セミアイソキネティック抵抗の適用とも呼ばれる)は、可動域全体にわたって動作のスピードあるいは等尺性(アイソキネティック)抵抗をかけることができる(54,75)。Stoneら(75)は、この種のデバイスは外的な妥当性に乏しいことを示唆している。加えて、これらのデバイスは一定負荷のフリーウェイト動作のような、より伝統的な方法、とくに多関節動作パターンで行われた場合と比べて適切なトレーニング刺激をもたらさないようである。  伝統的なレジスタンストレーニングエクササイズにおいて、外的負荷は一定であるが、筋によって発揮される力は動作に関与する関節における力学的有効性によって変化する(3, 13, 30)。変化する力学的有効性、また一定の負荷に伴う慣性の特性に対処するため、関節角度の変化に応じて抵抗を変化させることができる革新的なトレーニング機器を開発するための協調的な努力が重ねられてきた(30)。これらの可変抵抗法は、抵抗を変化させて関節可動域全体を通して力の適用を最大化させることを意図するというものである(29)。たとえば、バックスクワットにおいて、動作の一番上の部分では最大の力発揮が起こり、一番下の部分では最小の力発揮が起こる。したがって可変抵抗法はスクワット動作の一番下の部分で抵抗を減らし、一番下の姿勢から上昇するにつれて抵抗が増加する。その他の考慮事項には、動作のコンセントリックな努力の間、減速に大部分の時間が費やされるということがある(30)。全体的に、可変抵抗法は関節のてこの変化に合わせることができること(85)、また特定の関節角度における力学的な不利を克服し(24,69,70,79)、代償的な加速をもたらす(69,70)ことが示唆されている。  可変抵抗モデルを用いることにより、最近のストレングス&コンディショニング施設に最も広くみられる方法論は、チェーン(鎖)あるいはゴムバンドの適用である(30,54)。チェーンあるいはバンドを伝統的なフリーウェイトレジスタンストレーニング方法組み合わせることによって、それらの(伝統的)一定の負荷の活動中の負荷特性が変化することが示されている(30,41)。とくに、チェーンあるいはバンドは、活動中の関節可動域全体を通して抵抗を変化させることができる。  >可変抵抗モデルを用いることにより、最近のストレングス&コンディショニング施設に最も広くみられる方法論は、チェーン(鎖)あるいはゴムバンドの適用である(30,54)。 チェーンを付加したエクササイズ  可変抵抗の方法の中で人気が高まっているうちの1つが、ベンチプレスやバックスクワットのような伝統的なレジスタンストレーニングの身体活動にチェーンを付け加えるというものである(4,13,39,54)。この力を適用する方法は、パワーリフターの間で最も人気があるが(69,70)、さまざまな競技で働くストレングス&コンディショニング専門職の間でも人気が高まっている(22)。人気の高まりと、これらの方法がトレーニングの利点をもたらすと信じられているにもかかわらず、その信じられていることは科学的文献において実証されていない(13,14,39,54)。しかしながら、いくつかの研究ではチェーンをベンチプレスといった伝統的なレジスタンストレーニング方法に付加することは有用となり得ることが示されている(6)。それらの研究を注意深く調べることで、フリーウェイトエクササイズにチェーンを付加するという方法が効率性に影響を及ぼすかもしれないということが明らかになる。特異的に、これらの研究ではスクワットでは一番低い姿勢になるまで、あるいはベンチプレスではバーが胸の高さに下がるまで、吊り下げられたチェーンが床につくことのない方法が用いられた(6)。いくつかの研究において、この方法論は支持されているようであるが、伝統的なレジスタンストレーニング方法にチェーンを付加するさまざまな方法について探求するには、さらなる研究が必要である。 チェーンを用いる際の抵抗の決定  チェーンによってもたらされる抵抗は、チェーンの構造や密度、長さ、直径によって決まり、チェーンをレジスタンストレーニングの状況で用いる前に定量化する必要がある。加えて、連結するチェーンの数はチェーンによってもたらされる抵抗の大きさに影響を及ぼす(13,55)。チェーンによる負荷を定量化するために、Berningら(13)は抵抗の負荷に連結したチェーンの直径と長さによってもたらされる負荷に関する実用的なチャートを開発した。このチャートは後にMcMasterら(54)により、チェーンの質量や長さ、直径の関係を示すものへと修正された(表16.1)。  チェーンと組み合わせたバーベルの抵抗を決定する手段として、動作の一番上(トップ)と一番下(ボトム)の部分での絶対的な負荷が決定される(4)。これら2つの負荷の平均が算出され、それから選手が処方された範囲内でトレーニングすることができるよう、バーベルの負荷を修正するためにこの数値が用いられる。  一般的なルールとして、Baker(4)はチェーンの使用は中程度から一流レベルの安定したエクササイズテクニックを有する選手のみに限定することを推奨している。なぜなら、チェーンを付加することによってもたらされる負荷という課題は、選手の技術に影響を及ぼすことがあるためである。 フリーウェイトエクササイズへのチェーンの適用  一般的に、チェーンを伝統的なレジスタンストレーニング方法に適用することによって、適用された抵抗を線形に増加させることができる(54)。チェーンを適用する方法には、完全に伸展させた姿勢から動作を通して床に接触させる(13)、あるいはより軽いチェーンで吊り(図16.1)、動作パターンの最も低い部分(図16.2、例:スクワットの一番下あるいはベンチプレスで胸の高さ)でのみ床に接触できるようにする(4,6)、といったものがある。Baker(4)は、2番目の方法は3つの明確に区分された方法で動作速度に影響を及ぼすかもしれないと示唆している。最初に、バーベル-チェーン複合体(訳注:バーベルとチェーンを一体のものとした表現)は、チェーンの連結部が床から離れる動作の一番上においてのみ(すなわち伸展の部分)役割を果たす。動作の最下部では、連結部が床に完全に接触し、負荷の低減がもたらされ、選手はより速いレートでバーベルを加速させることができる。第二に、より大きな神経的活性化の反応として、レペティション(繰り返し)の中での活動後増強効果が起こる可能性がある。とくに、チェーンが床に積み重なり、バーベルの質量(訳注:バーベルとチェーンによる負荷)が減少するにつれてより大きな神経-筋の活動が起こり、このことで動作速度の促進が可能となる。最終的に、動作の下の部分で抵抗が減少することは、より素早いストレッチ-ショートニングサイクルを引き起こす可能性がある。Baker(4)は、動作の下の部分でチェーンの連結部分が床に積み重なるとき、エキセントリック筋活動からコンセントリック筋活動へと移行する際の反応が選手に生じ、エキセントリックな(伸張性の)負荷が減少し、より素早い償却局面(amortization phase)が起こることを示唆している。 レジスタンスバンドエクササイズ  伝統的なバーベルの抵抗にレジスタンスバンドをかけて用いることは、ストレングス&コンディショニング専門職の間で広まってきている(4,27,46,77)。レジスタンスバンドを伝統的なレジスタンストレーニングエクササイズと組み合わせて用いることを支持する研究がいくつかある(1,74,79)。たとえば、Wallaceら(79)は、バックスクワットを行う際、全体の負荷の35%をバンドに置き換えることによって、急性にピークパワーが約13%増加し得ることを示唆している。加えて、Baker and Newton(5)は、バンドの使用によって各レペティション内において活動後増強効果を生じる結果となることを示唆している。この主張に対する支持は、Stevensonら(74)の業績に由来しており、トレーニング負荷の20%に寄与するようなバンドの使用により、一定負荷の条件と比較してコンセントリックなRFDの急性の増加という結果となった。これらのデータは、バンドを伝統的なレジスタンストレーニング方法に付加することによっていくらかの利点、とくにパワーあるいはRFDに対する利点があることを示唆しているが、これらの知見と主張が異なる研究もある(24,41)。たとえば、Ebben and Jensen(24)は、スクワットの際にレジスタンスバンドを総負荷の10%となるように用いた場合、積分筋電および平均床反力において差がみられなかったと報告している。  最近、レジスタンスバンドの使用についての研究、とくに縦断的研究がわずかながら行われており、数人の研究者が報告している急性の効果が、長期的に筋力およびパワー向上へと移行するかどうかが検証されている。選手育成においてバンド使用における最適な方法論を決定づけるためには、さらなる研究も必要となる。 レジスタンスバンドを用いる際の負荷の決定  レジスタンスバンドを用いる際、その組成は製造時に用いられる熱可塑性樹脂(サーモプラスティック)または弾性重合体(エラストマー)によって決まるということを理解することが重要である(54)。レジスタンスバンドの組成は、粘弾性(スティフネス)や、密度、降伏強さ(訳注:材料に対して力を加えていく場合に元に戻らなくなるときの強さ)、引張強さ(訳注:材料が破断・破壊されるときの強さ)の全般に影響を及ぼすため、重要である(54,55,77)。最終的に、レジスタンスバンドによって生じる張力(抵抗)は、バンドのスティネスや、バンドが引き伸ばされた大きさ(変形の程度)によって決まる(55)。とくに、フックの法則により、バンドによって生じる張力は、そのスティフネス(k)と変形(d)の積に等しい: 張力 = スティフネス(k) × 変形(d)  バンドが引き伸ばされる(すなわち変形の程度が大きくなる)につれ、バンドに生じる張力は線形に増加する(訳注:一定の割合で増加する)。しかしながら、いくつかの研究では、レジスタンスバンドが曲線的および直線的(線形)の変形領域を示すことが示唆されている(1,55,62)。  ベンチプレスやバックスワットのような伝統的なフリーウェイトトレーニングエクササイズにバンドをかけて用いる場合、同じバンドでも3.2〜5.2%の差が生じ、その結果平均張力に8〜19%の差が生じる可能性があることをストレングス&コンディショニング専門職は注意すべきである(55)。基本的な長さ-張力関係は表16.2で確認することができ、張力はバンドの長さから推定式を用いて推定することができる。  チェーンを用いることで、どのくらいの抵抗がかかるかと同様に、バンドを用いることは、フリーウェイトによって、またバンドによって動作の範囲全体を通してどれほどの負荷がもたらされるかをコーチが見極める(determine)必要がある(4)。とくに、コーチは動作の下部および上部におけるバンドによる負荷を測定し、それらの平均を算出しなければならない。Baker(4)の推奨に基づくと、150kg(330ポンド)の5RM負荷でトレーニングを行いたい選手は、2つのバンド位置(すなわち上下)の平均を差し引いて、バーに装着する負荷を低減させるとよい。つまり、もしバンドが動作の最下部で抵抗負荷がゼロであり、動作の最上部(ベンチプレスのロックアウト)でバンドが引き伸ばされた長さに基づくと26.6kg(58.5ポンド)である場合、選手は総重量から13.3kg(29.2ポンド)を差し引いて、バンド無しで136〜137kg(299.2〜301.4ポンド)とするとよい。 フリーウェイトエクササイズへのレジスタンスバンドの適用  フリーウェイトレジスタンスエクササイズにバンドを適用するうえで、複数の方法を用いることができる。バンドはバーベルと、スクワットラックや重いダンベルの個別化された場所にかけることができる(4)。バンドを適用した場合、動作の最上部においてバンドの張力および合計の抵抗負荷は最大となる。反対に、動作の下部において加わる負荷は低減され、バンドは伸張されることはなく、バーベルに対して抵抗を加えることはない。たとえば、スクワットの最下部(すなわち、ボトムポジション、図16.3)において、バンドはゆるみ、バーベルに対して積極的に張力を加えることはなく、したがってエクササイズに対する追加の負荷はかからない。選手が最下部からロックアウト姿勢へと上昇するにつれて、バンドはより大きな張力の負荷をかけていき、バーとバンドの負荷はやがて最大となる(図16.4)。選手が最下部から上昇していくにつれて張力負荷はだんだん大きくなっていくことに注意することが重要である。反対に、選手が下降するにつれて、張力負荷はだんだん低減する。 非伝統的な用具によるトレーニング方法  伝統的に、ほとんどの現代的なストレングス&コンディショニング施設において用いられているトレーニング介入には、バーベルやダンベル、多様なトレーニングマシーンに大きく頼っていた。より最近では、ストレングス&コンディショニング専門職は、選手に対してより多様な準備を身につけさせるために非伝統的な用具を組み合わせ始めている。非伝統的な用具には、ストロングマントレーニングで用いられることが典型的な、タイヤやログ(丸太)、ケトルベル、石、重りつきスレッド(そり)、その他の用具が含まれる(39)。非伝統的な用具によるトレーニングは人気が高まっているが、現在、この種のトレーニング方法の効果について直接的に探求した研究は、相対的に少ない。  >非伝統的な用具によるトレーニングは人気が高まっているが、現在、この種のトレーニング方法の効果について直接的に探求した研究は、相対的に少ない。 ストロングマントレーニング  ストロングマン競技の用具によるトレーニングは、スポーツパフォーマンス向上のために提案されたツールとして最近人気の高まりをみせている(11,53,66,80,84,86)。最も一般的なストロングマンエクササイズは、タイヤフリップ、ログリフト(またはケグリフト、訳注:ケグは樽の意味する)、ファーマーズウォークである。この種のエクササイズについての研究は限られているが、いくつかのエビデンスにより、高強度の刺激を導入するために用いることで、血中乳酸の応答が高まる結果となることが示唆されている(12,44,86)。加えて、この種のエクササイズは、伝統的なトレーニング身体活動と比較して異なる方法の、選手が効率的に取り組む課題となる大きな不安定性を生み出すことが示唆されている(53)。 タイヤフリップ  タイヤフリップは、トラックや重機のタイヤが用いられ、ここの筋力のニーズに合わせて追加の負荷を中心部に装着することもある(39,80)。適切なタイヤのサイズの選択は、選手に特異的なプログラムをデザインする際にストレングス&コンディショニング専門職が考慮すべき多数の要因によって決まる。タイヤの長さ、幅、重量を含めた大きさ(寸法)を考えに入れるべきである(16)。一般的なルールとして、タイヤは選手が直立したときの身長よりも高くなるべきではない。タイヤが高くなるほど、力学的有効性がが低いことと挙上全体を通じて長い距離が必要となり、選手がタイヤをフリップする(ひっくり返す)のが難しくなる。加えて、タイヤの幅も選手がフリップを行う能力に影響を及ぼすことがある。たとえば、幅の狭いタイヤは、肢長と深さが求められるため、一般的に身長の高い選手にはフリップするのが難しいと考えられている。反対に、幅の広いタイヤは、身長の低い選手にとって、腕の長さが短いためにより難しくなる(16)。もう1つの考慮事項は、タイヤのトレッド(訳注:タイヤ表面につけられた溝や模様のこと)である。トレッドが摩耗しているとグリップが難しくなり、トレッドがくっきりと残っていると裂け目や破片、露出した金属によって選手のケガのリスクとなる(16,80)。選手個人の筋力レベルに基づいて正しいタイヤを選択したら、ケガのリスクを最小限にするために適切なテクニックが用いられるべきである。  タイヤをフリップするうえで、3つの基本的な方法が用いられる。すなわち、スモウ(相撲)、バックリフトスタイル、タイヤを肩に当てる(shoulders-against-the-tire)テクニックである(16,80)。スモウスタイルのフリップテクニックは、伝統的なスモウデッドリフトスタンスに、より狭いグリップにした両腕の位置を組み合わせた方法を用いる。この種類のテクニックは、パワーリフターがデッドリフトの際に用いるのが典型的である。このテクニックにより、タイヤが股関節あるいは胸の高さまでいったん持ち上げられると、腕で前方へ押す動作を行ってタイヤをフリップできるように手を回旋させる(16,80)。バックリフトスタイルは、より狭く伝統的なデッドリフトのスタンスで行われ、最後は前方へ押す動作が行われる。このテクニックは、最初に両足を股関節の幅のスタンスにして、加えて膝および股関節を曲げることで、選手はタイヤの基部をつかむことができ、デッドリフトと同じような方法で引くことができる(80)。タイヤが上がるにつれて、両手はタイヤを前方へ押してフリップするために再ポジショニング(両手の位置の調整)が行われる(16)。  最近の研究では、タイヤフリップの各テクニックの全般的な安全性について直接調べたものはない。しかしながら、研究論文の著者の何人かは、スモウスタイルが最も安全であることを示唆しており、その一方でさらに最近ではタイヤを肩に当てる(shoulders-against-the-tire)スタイルは実践的な文献において好ましいテクニックとなってきている(16)。タイヤの側面で負荷を支えているとき、選手は膝をつくことによって対処する。足関節は背屈し、両足は股関節の幅に広げる。この姿勢で選手は顎と肩をタイヤにつける。このタイヤに対する肩の配置は、伝統的なバーベルフロントスクワットにおいてみられる配置と類似している(第15章参照)。タイヤはスピネイティッドグリップで握り、グリップ幅はタイヤのサイズに大きく依存する(すなわち、より幅の広いタイヤ=より幅の狭いナロウグリップ)。この姿勢で、選手は足関節の背屈を継続し、母趾球で立ち地面から膝を上げることができるようにする。この時点で、選手の重心はタイヤに向かって移動し選手の体重の大部分はタイヤへとかかる。選手は胸を挙上し、下背部の筋を収縮させる(16)(本章の最後のほうのエクササイズテクニックにおけるスタート姿勢を参照)。  次に選手は、タイヤを前方および上方へ押すために足関節の底屈に続いて膝と股関節を伸展させることによって、フリップ動作を開始する。これが起こる際、両肩および股関節は同じ割合で挙上すべきであり、2〜3歩の小さなステップで前方へ移動してからトリプルエクステンション(訳注:足関節や膝関節、股関節の3つが伸展すること)で終わる。タイヤが股関節の高さまで上がったら、選手は力強く片方の股関節を屈曲し、大腿四頭筋はタイヤとぶつかる。脚にタイヤがぶつかることで、力強い上方への運動量を達成することができる(16)。これが起こるとともに、選手は両手をプロネイティッドポジション(回外位)へと切り替える。両手の向きを変えた後、選手はタイヤに向かって進み、両腕を伸展させてタイヤを力強く押す。これらのすべての姿勢・位置の写真は、本章の最後のほうのエクササイズテクニックのセクションで見ることができる。 ログリフト  ストロングマントレーニングの一部であり、古典的エクササイズの1つ、ログリフトは、本質的にはクリーンのバージョン(型)の1つである。その他のログを用いた伝統的な挙上動作には、クリーンやプレス、ジャーク、ロウ、スクワット、デッドリフト、ランジも含まれる(39,64,83)。ログは、ウェイトを装着できるように、またプロネイティッドグリップに対応できるよう、ミッドレンジグリップがデザインされているのが典型的である(64)。ウェイトは伝統的なプレート装着によって付加されるのが典型的であり、このことにより、多様なログを用意しておく必要性はなくなる(39)。どのように効率的にログを用いたエクササイズを課すかについての情報は限られているが、トレーニング負荷は伝統的なエクササイズに基づくかもしれない。たとえば、Winwoodら(83)は伝統的なクリーン&ジャークの1RMの70%をログトレーニングに用いた。この関連性は論理的ではあるが、ログの用具の挙上に伴う力学的な難しさがあるため、伝統的なトレーニングと同じ負荷を挙上することができないようである(39)。  その他の種類のログには、抵抗に水を用いることができるものがある(39,64)。Ratamess(64)は、この種のログは、液体が内部を動き、スタビライザー筋群の活性化を促進する結果となることを示唆している。これは論理的なようにみえるが、この主張について探求した科学的な論文はない。  ログを用いたトレーニングは人気が高まっているようだが、このトレーニング方法の有効性についてや、多様な競技の準備にこの種のトレーニングをどのように適用するのがベストであるかについては、ほとんど研究されていない。したがって、ログを用いたトレーニングの有効性についての本当の理解をもたらす科学的な調査が必要なのは明らかである。 ファーマーズウォーク  一般的に用いられるその他のストロングマンエクササイズは、ファーマーズウォークである。これは選手が両手にそれぞれ負荷を持ち、前方へ歩くというものである(53, 80)。Winwoodら(83)は、ファーマーズウォークのようなエクササイズは、不安定で扱いにくい抵抗であり、片側と両側の動きの両方があるため有用なトレーニングツールであると示唆している。加えて、ファーマーズウォークは全身筋持久力や、背部の持久力、握力を高めることも示唆されている(80)。McGillら(53)は、ファーマーズウォークは伝統的なトレーニングとは異なる方法で身体の連結および安定化機構へ負担をかけるため、伝統的なトレーニングプログラムを促進するかもしれないと示唆している。ファーマーズウォークには、静的負荷(例:重いダンベル)または可変的負荷(例:水で満たしたもの)のどちらも用いることができる(80)。どの種類の負荷を用いるかにかかわらず、ファーマーズウォークは独特なコアの活性化パターンを引き起こすが、このエクササイズがストレングス&コンディショニングのツールとして用いることを支持する科学的文献は非常に限られている。加えて、入手できる研究の中でファーマーズウォークの安全性について調べた研究はないため、安全上の注意について推奨するのは難しい。したがって、選手は一般的に受け入れられている安全上の原則と注意に従うべきである。すなわち、高いレベルの筋力を持つ、上達した選手のみがこのエクササイズを行うことを意図すべきである。このトレーニング用具はストレングス&コンディショニング環境では一般的であるが、その効果を決定づけるにはさらなる研究が必要である。 ケトルベルトレーニング  最近、ストレングストレーニング&コンディショニング専門職は、ケトルベルエクササイズを用いることに興味を持つようになってきた(7,17,48)。新しい現象であるように見えるかもしれないが、ケトルベルが東側諸国において人気のトレーニング方法となったときには、すでにその使用は数百年前にさかのぼるものであった(38)。ケトルベルという言葉は、ロシア語のgirya(ギリャ)、すなわち鋳鉄の砲丸にハンドルをつけたものという言葉に由来する(20)。西洋の文献では、ボールにハンドルをつけた用具はケトルベル(kettlebell)と呼ばれており、ケトルボール(kettleball)と呼んだほうがよいかもしれない(20)。  ケトルベルを用いることへの関心の高まりとともに、これらの用具を選手や一般の人々に用いることの有用性についての科学的な探求も増えてきた。ケトルベル使用を支持する科学的エビデンスの大部分は、一般的な身体あるいはフィットネス向上のツールとしての潜在的有用性に注目している(26,40,76)。これらの研究で最も共通して用いられたエクササイズは、ケトルベルスイングであり、片手または両手のどちらでも行うことができる(40,52,76)。ケトルベルスイングは、心臓血管系によい影響を及ぼすと考えられるが、同じレベルのトレッドミル走や、より伝統的な有酸素性運動ほどではないことに注意することが重要である(40)。  最近、限られた研究においてケトルベルトレーニングの筋力向上のツールとしての効果について探求が行われている。臨床的に、またレクリエーションでトレーニングを行った人々においてケトルベルトレーニングを行った場合、トレーニングをしなかった群と比較して筋力が増加したことが報告されている(43,61)。加えて、ケトルベルエクササイズ(例:スイング、ゴブレットスクワット、アクセレレイティッドスイング)を組み合わせた6週間のトレーニング介入の結果、レクリエーションでトレーニングをしていた男性において、筋力および垂直跳びが向上したようだ(61)。しかしながら、伝統的なウェイトリフティングに基づくトレーニング手法にみられる典型的な筋力向上と比較して、これら(ケトルベル)の筋力向上は有意に小さかった。とくに、Ottoら(61)は、6週間のウェイトリフティングトレーニングの結果、垂直跳びが4%向上した一方、ケトルベルスイングによる向上はわずかに0.8%であったと報告している。加えて、バックスクワットの筋力は6週間の伝統的なウェイトリフティングトレーニングにより13.6%向上したが、ケトルベルトレーニングでは4.5%のみという結果であった(61)。  最新の多くの科学的知見によると、ケトルベルはおそらく一般的な準備エクササイズにおそらく最もよく、ウェイトリフティングのような伝統的トレーニング手法は最大筋力およびジャンプ能力の向上により効果的であるようだ。しかしながら、選手の発達においてケトルベルが果たす役割についてよりよい理解を促進するためには、さらなる研究が必要である。 ケトルベルの種類  ケトルベルを用いる場合、ケトルベルの種類について考慮する必要がある。ケトルベルには2つの種類があり、鋳鉄(図16.5)およびスポーツケトルベル(図16.6)である(20)。鋳鉄のケトルベル、あるいはフィットネスケトルベルは、鋳造(訳注:高熱で溶かした金属を型に流し込んでつくること)された鉄でできており、重さによってサイズが異なる。スポーツケトルベル、あるいは競技ケトルベルは、スチール(鋼鉄)でできており、統一的なデザインおよび寸法となっている。とくに、重さにかかわらずサイズは変化せず、重さの違いは色によって示されている(20)。鋳鉄およびスポーツケトルベルの間でサイズや寸法の違いがあるが、その他の違いは鋳鉄のケトルベルのほうが高価でないこと、またおそらくストレングス&コンディショニング施設に普及していることである。 ケトルベル選択における考慮事項  ケトルベルの選択において最初の重要な考慮事項は、もたらされる負荷の種類である。ケトルベルの基本的な2つの種類には、固定されているものと調整可能なものがある(20)。鋳鉄あるいは競技ケトルベルのような負荷が固定されたケトルベルでは、負荷は一定で変化しない。したがって、さまざまな範囲の負荷を得るには、さまざまな重さのケトルベルのセットを揃える必要がある。調整可能なケトルベルには、プレート負荷によるものと注入負荷(shot loaded)によるものがある。実際には、プレート負荷式のケトルベルは、単にハンドルにウェイトプレートをつけたものであり、ケトルベルと分類されるものの本当のケトルベルではない(20)。対照的に、注入負荷のケトルベルはより伝統的なケトルベルの内部が中空になっているものである。歴史的に、これらのケトルベルには砂や水、鉛、水銀すらも詰められていた(20)。もしこの種のケトルベルの全部ではなく部分的に詰められている場合、中身がボール内で動き、より大きなトレーニングのストレス源となる。この種のケトルベルは20世紀、Arthur SaxonやEugen Sandowといったとくにサーカスのストロングマンとともに人気となったが、現代のストレングス&コンディショニングにおいては広がっていない。  2つ目の考慮事項は、ハンドルであり、これは選手とケトルベルの間をつなぐ重要なインターフェイスである。鋳鉄のケトルベルでは、ハンドルの直径は重量が増加するにつれてやや変化する。たとえば、20kg(45ポンド)より重いケトルベルでは、ハンドルは33〜35mm(1.3〜1.4インチ)であり、小さなケトルベルのハンドルの直径はより小さい。加えて、ケトルベルを用いるさまざまなエクササイズを促進するため、よいケトルベルにおいてはハンドルとボールの上部の間のスペースは標準化されている。ハンドル下部とボール上部の間のスペースは、55mm(2.2インチ)であり、ハンドルの長さは186mm(7.3インチ)であるのが典型的である(20)。ハンドルの表面については、ケトルベルの中には滑らかな塗装をしてあるものがあり、またそれ以外に無塗装のスチールを研磨した基本的に地金ものがある(訳注:原著ではbare medal、metalのスペルミスと想定し「地金」と訳出)。研磨したスチールのハンドルは、チョークをより保持することができ、グリップがよい傾向があり、塗装されたものより滑りにくく、選手が汗をかいている場合も握ることができる(20)。 片側でのトレーニング  トレーニング方法を用いる場合に、片側あるいは両側のトレーニング介入を用いることができる。これらのトレーニング方法は、上肢あるいは下肢で行うことができ、目標とする結果によって決まる。一般的な下肢の片側エクササイズには、ランジやステップアップ、ブルガリアンスプリットスクワットとも呼ばれるシングルレッグスクワットが含まれる。この種のエクササイズは、片脚をアイソレート(訳注:その部位だけに刺激を入れる)するものであり、さまざまな競技における選手の準備に用いられるのが典型的である。この種のエクササイズは、強調の程度を変化させてトレーニングプログラムに統合され(50)、両側で行う際の非対称性を軽減することを意図して(45)、あるいはリハビリテーションツールとして(25)、用いられる。それらはしばしば両側性の欠点、つまり片側と両側の動きの間にある非対称性を低減させるために用いられる(42)。両側性の動きは、主動筋群の随意的な活性化が起こり、両側の促通を示すことが晃になっている(8,67)。トレーニングを積んだ筋力のある人は、両側での促通を示す傾向があるが、トレーニングをしていない、あるいはケガをしている、より筋力の低い選手は両側性の欠点を示す(10)。したがって、両側性の促通反応に基づくと、トレーニングを積んだ人は片側性の手法を筋力向上のために用いるべきではない。対照的に、片側性のトレーニング方法は、トレーニングをしていない、あるいはより弱い、ケガをした人において有用であるかもしれない(10)。  >トレーニングを積んだ筋力のある人は、両側での促通を示すが、トレーニングをしていない、あるいはケガをしている、より筋力の低い人は両側性の欠点を示す(10)。 まとめ  ストレングス&コンディショニング介入のデザインにおいて、過負荷を適用するために多様な方法を用いることができる。代替的な方法や、伝統的な用具を用いることは、人気が高まってきている。これらの用具を選択する場合、ストレングス&コンディショニング専門職は、この種のトレーニング介入の便益と弱点について考慮すべきである。加えて、選手のレベルは、これらの方法のどれを用いるかに対して影響を及ぼすのは当然である。たとえば、初心者あるいはトレーニングをしていない人は、自体重あるいはコアスタビリティエクササイズから大きな恩恵を得られるかもしれない。反対に、トレーニングを積んだ人、あるいは一流選手は伝統的な床で行うフリーウェイトエクササイズにより大きな進歩を経験するかもしれない。上級者の選手においては、伝統的なトレーニング方法に多様な抵抗を適用することは、より大きなトレーニング刺激となるかもしれない。代替的方法あるいは非伝統的な要素に基づくトレーニング方法を用いることを選択する場合、ストレングス&コンディショニング専門職は適切なエクササイズテクニックを教えると共に、常に選手をモニターして安全なトレーニング環境が維持されることを確実なものとすべきである。 重要語句  抵抗の調節(accommodating resistance)  代替的様式(alternative modes)  解剖学的なコア(anatomical core)  前十字靭帯(ACL: anterior cruciate ligament)  体軸性骨格(axial skeleton)  左右の非対称性(bilateral asymmetries)  両側性機能低下(bilateral deficit)  両側性促進(bilateral facilitation)  自体重トレーニング(bodyweight training)  チェーン(chains)    コア(core)  ファーマーズウォーク(farmer’s walk)  床で行うフリーウェイトエクササイズ(ground-based free weight exercises)  アイソレーションエクササイズ(isolation exercises)  ケトルベル(kettlebells)  ログ(logs)  マシーンを用いたトレーニング(machine-based training)  筋の活性化(muscle activation)  非伝統的な用具(nontraditional implement)  レジスタンスバンド(resistance band)  スティッキングポイント(sticking point)  ストロングマントレーニング(strongman training)  バルサルバ法(Valsalva maneuver)  可変抵抗(variable resistance) 例題  1. タイヤフリップを行うとき、初期の押す動作において、選手の股関節の挙上が両肩の挙上よりも早い場合、効果的な修正は以下のどれか。  a. 股関節がより高い位置でスタートする。  b. この姿勢において、股関節が両肩のやや下の位置を保つようにする。  c. タイヤを前方に押す代わりに上方へと挙上する。  d. 最初に腕で押す。  2. ストロング競技の選手が片側のトレーニングのみをプログラムに入れる場合、ストレングス&コンディショニング専門職は以下のどれが起こるかもしれないと予測すべきか。  a. 両側の促通が起こるだろう。  b. 両側性の欠点が大きくなるだろう。  c. 両側性の非対称の低減が起こるだろう。  d. 片側のみの筋力が増加するだろう。  3. コアトレーニングに関して、不安定性エクササイズを適用するのに最も適しているのはいつか(どれか)。  a. トレーニングをしていない、相対的に弱い選手  b. ケガからのリハビリテーションを行っている、トレーニングを積んだ選手  c. 筋力およびパワーを最適化しようとしている、トレーニングを積んだ選手  d. エクササイズを初めて行う、トレーニングを積んでいない選手  4. 可変抵抗トレーニング方法を用いる際の理論的根拠は以下のどれか。  a. 一定負荷の運動に伴う力学的有効性の変化に適応するため  b. 関節可動域全体を通して力の適用を最小化するため  c. 挙上動作中の減速に費やす時間を増加させるため  d. 関節角度が変化する際、適用される抵抗を一定に保つため  5. 不安定性デバイスを用いてトレーニングを行うことで、主動筋の全般的な力発揮能力やパワー出力が、安定した条件で行うよりも、[__]減少することがある。  a. 20%  b. 50%  c. 70%  d. 90%